プロレス美術館館長の『迷走ナビゲーション』

 どの業界にとっても新規固定客の獲得ほどありがたいものはない。プロレス界でも、このテーマは他のジャンル以上に難しく深刻化。プロレス美術館に来場してくれるファンも、40代以上の男性が圧倒的に多く昭和のファンがほとんどで、平成のデルフィン層との出会いはゼロに等しい。
 そんな中、先日、訪れてくれた観戦暦35年のお父さんは小学5年生と中学2年生の息子を連れて3人でやってきた。息子たちも少なからず、格闘技にも興味を持っていた様子だった。考えてみれば、2000年にオープンしたプロレス美術館も7周年を迎えるが、親子連れでの来場は珍しい。
 だが、話を聞けばおとうさんの影響が極めて強く、プロレスを見始めたが、結局は地上波で放映している総合格闘技に興味を持ち始めた模様。もちろん、父は格闘技にはほとんど興味を持たないほどのガチガチのプロレス党。そのおとうさんが息子にもプロレスに興味を持たそうと思って、さまざまな工夫を凝らし、プロレスの魅力を伝えようとしたが、子供たちが興味を持ったのは結局、総合格闘技の方だったようだ。
 この現実をおとうさんは次のように解釈しているようだ。
 「私たちと違い最近の小学生は物心がついた頃には、プロレスと総合格闘技が同時に存在するために、リアリティーのある総合格闘技に魅力があるのではと思います。また、競技とは別のセレモニー等で、華々しさがある『K-1』などにも自然と目がいくようです。ある小学生同士の会話を耳にしたのですが、彼らからすると、総合格闘技の場合は技が決まれば秒殺で終わるのに対し、プロレスでは何回も同じ技を決められた上に、相手がそれでも負けないのは、攻撃側のレスラーも力不足」。結局、「プロレスラーは格闘家に比べて、練習が足りないために、勝者、敗者ともに『失格』の烙印を押されかねないのでは?」とプロレス界の未来を危惧。
 
 確かに、将来的にプロレス界に多額のお金を落としてくれそうな有望見込み客を、自ら取り逃がしているように思えてならなかった。
プロレス美術館HP