【ドラマを】
私がプロレス・格闘技界に足を踏み入れて、この秋でちょうど10年になった。
きっかけは、あるタブロイド版だ。
大学卒業後、神奈川県の行政広報映画をつくる製作会社に新米演出家として入社した。
毎朝7時になると、県庁の駐車場からカメラマンや照明さんたちとライトバンに乗り込んで、神奈川県内各地に向かう。
ウミウが飛来したと聞けば城ヶ島へ行き、鮎釣りが解禁したと聞けば相模川へ入り、高山植物が咲いたと聞けば箱根の山を登る。そして、16ミリのフィルムにおさめ短編映画をつくる。そういう仕事をしていた。
目的地に向かう車の中で、先輩のカメラマンがいつもタブロイド紙を熟読していた。
「何をそんなに熱心に読んでるんですか」
と私が聞くと、先輩は
「週刊ファイトっていうプロレス新聞。I編集長の喫茶店トークが面白いんだよ」
と言った。
プロレスに興味がなかった私は、「へ~」と気のない返事をした。すると先輩は、ちょっと怒ったように
「I編集長のコラムは、プロレスを通して文化を語ってて深いんだよ」
と言った。
その後、先輩に誘われるままプロレスを観に行き、「女子プロレスラーはバックステージで素顔を見せるのだろうか」と興味を持ち、ちょうどサムライTVが開局するニュースを聞きつけたことから、私はサムライTVディレクターに転職。紆余曲折を経てライターになり、現在に至る。
どういう書き方だったかは定かではないが、ちょっと前に井上氏が書いたコラムの中で「プロレスマスコミは、ありのままの試合展開ではなく、そこから自分なりのドラマをつむげ」というような内容を見つけた。
今は格闘技を書くことが中心になっている私だが、書きたいことはたったひとつで、それは選手たち1人ひとりのドラマであり、技1つひとつに流れるドラマであったりする。なぜ自分はこんなにドラマに執着するのかわからなかったが、井上氏のコラムを読んで、ストンと腑に落ちるものがあった。
そして、これからもジャンルに関わらず人間の、人間にしか生み出しえないドラマを描きたいと思った。その思いはきっとこれからも変わらない。
「行政広報映画の役目は終わった」との判断から、来春、私がI編集長の存在を知るきっかけとなった製作会社は、解散になるという。
井上義啓氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
http://homepage3.nifty.com/wb-fuse/
松本幸代のミルブロ!
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