[ファイトクラブ]ベルトで殴った奴が得する? メヒコSmackDown漁夫の利サミ・ゼイン

[週刊ファイト9月24日]期間 [ファイトクラブ]公開中

▼ベルトで殴った奴が得する? メヒコSmackDown漁夫の利サミ・ゼイン
 (c) 2026 WWE, Inc. All Rights Reserved.
 by スープレックス豪
・ゼイン戴冠 フェニックス8度目 チェルシー防衛 ニッキーがペイジ下す
・5日後、9日後、翌日 メキシコの日程はいつも誰かの後出しで決まる
・CMLLもAAAも相手を一度も「ライバル」と呼んでいないという事実
・34年前、テレビ局の金で本家から人を抜いて出ていった分家があった
・CMLLが借りてきた人を辿っていくと、そのまま日本まで繋がっていく
・覆面剥いでも反則にならない「厳密なルチャのルールでやっていない」
・満員12,651人 メキシカンは騒がしい お祭り騒ぎのプロレス好き
・マスクの国で、怪我隠すためのマスク着けた王者が防衛してみせた夜
・AAAのベルトは2本とも、買った側の番組の中で王者が守り切った夜
・この夜汚い勝ち方は二つあった。その一つ目が、ベラの足とロープだ
・この夜の頭で「いい人間であることに意味はない」と言った男がいた話
・「正義はどんな形でもよかった」ゼインが試合前にそう語っていたこと
・止めに来た男がベルト振って外し、それがパンクの頭に当たってしまう
・ベルトで殴ったやつが得をする。番組では7月からずっとそうだった
・完璧な先読みだった。それは7週間前から本誌紙面に掲載されている


■ WWE SmackDown
日時:9月11日(現地)
会場:メキシコ・メキシコシティ アレナCDMX

ゼイン戴冠 フェニックス8度目 チェルシー防衛 ニッキーがペイジ下す

■ WWE SmackDown 9月11日 メキシコシティ 全試合結果
<オープニング>
 ランディ・オートンがマイク。SNMEでコディ・ローデスを破り、15度目の世界王座獲得を宣言

<第1試合 AAA世界クルーザー級選手権>
[王者]○レイ・フェニックス
 メキシカン・マッスルバスター(ブラックファイヤードライバー)
[挑戦者]●リッキー・セインツ
※フェニックスが8度目の連続防衛

<第2試合>
○ニッキー・ベラ
 ロープに足をかけた丸め込み
●ペイジ

<セグメント>
 バロン・コービンがリル・ヤッチーとトリック・ウィリアムズを襲撃

<第3試合 暫定WWE女子選手権>
[王者]○チェルシー・グリーン(ティファニー・ストラットン帯同)
 アンプリティアー
[挑戦者]●ナイア・ジャックス

<第4試合 AAA世界タッグ選手権>
[王者]○ウォー・レイダーズ(エリック&アイバー)
 ラグナロク
[挑戦者]●ダミアン・プリースト&R-トゥルース
※試合後、プリーストが相方のR-トゥルースをラリアットで襲撃

<第5試合 アンディスピューテッドWWE選手権>
[挑戦者]○サミ・ゼイン
 ヘルーバキック
[王者]●CMパンク
※ゼインが2度目の戴冠。ケビン・オーエンズが介入し、ゼインを止めようとしたベルトがパンクの頭に当たった

5日後、9日後、翌日 メキシコの日程はいつも誰かの後出しで決まる

 2025年4月16日、AEWがCMLLと組むと発表した。6月にアレナ・メヒコで大会をやる、と。その5日後、4月21日。WWEがAAAを買ったと発表した。

 翌年の5月21日、今度はCMLLが93周年アニベルサリオの日程を発表。9月18日、アレナ・メヒコ。年に一度の一番大きい興行だ。その9日後の5月30日、WWEがメキシコ復帰を発表した。9月11日と14日。同じ街の、1週間前。6月1日にWWEがプレスリリースを出すと、その翌日、AEWが8月5日のアレナ・メヒコ大会を発表した。

 これ、うちがバーベキューやると翌週に隣もバーベキューやってる、あれだ。どっちも相手のことは言わない。言わないけど、しっかり見てる。近所は怖い。

 さておき、並べるとこう見える。WWEとAAA。AEWとCMLL。ただ、これを「メキシコでの代理戦争」と呼んでしまうと、一番面白いところを取り違えてしまう。

CMLLもAAAも相手を一度も「ライバル」と呼んでいないという事実

 CMLLもAAAも、相手に「rivalidad(ライバル関係)」という言葉を一度も使ったことがない。この対立を育てたのは、CMLLでもAAAでもなくファンの方だ。

 2018年7月21日、メキシコシティ政府がルチャ・リブレを市の無形文化遺産に指定した。また行政は社会開発局に、ルチャで生活している人たちの名簿を作成させ、その名簿に載った人を、市の福祉の対象に入れ、生活の面倒を見ることで、ルチャやプロレスの文化を行政として守ろうとした。

 載るのは選手だけじゃない。歴史家も、記録者も、レフェリーも、その家族も入っていた。また中央広場のソカロで、26大会・144選手が出演する催しを行った。だから「WWE対AEW」「AAA対CMLL」という構図だけでこの国のプロレスを語ると、間違った捉え方をしかねない。

34年前、テレビ局の金で本家から人を抜いて出ていった分家があった

 とはいえ、企業の側の事情もまた生々しい。AAAを作ったアントニオ・ペーニャは、もともとCMLLの人間だった。若くて速い選手を押したいペーニャと、重量級の伝統を守りたい上層部が噛み合わない。1991年秋、ペーニャは密かにテレビサと交渉を始める。

 テレビサの側もCMLLに不満を持っていた。1992年4月22日、ペーニャに同調した選手たちがCMLLを退社。5月7日、記者会見でAAAが発表された。AAAは、テレビ局の金で、本家から人を抜いて作られた分家だった。その分家は、2019年にテレビ局を失った。

 数十年組んできたテレビサとの関係が切れ、以後6年、放送の受け皿を探して漂流する。そして2025年8月1日、51%をWWEに渡した。買収額は非開示。現地報道の見積もりは約5,000万ドル。日本円で70億円台だ。

 高いのか安いのか。ちょうど今年の5月27日、ブシロードが新日本プロレスの全株式をテレビ朝日とサイバーエージェントに譲渡している。こちらは約36億円。ブシロードが2012年にユークスから買ったときは5億円だったので、14年で7倍になった計算だ。その新日本の倍で、AAAは買われている。

 ただし、売却した理由ははっきりしない。ブルームバーグ・リネアは「国際化と収益化のため」と書いた。一方、AAAのタレント部門ディレクターであるラテン・ラバーは、経営難説を正面から否定している。

「赤字を見たことは一度もない。会場が4分の3も埋まらなかったことすらない」「うまくいっていない会社に、誰が金を突っ込むんだ。立て直せると分かっている会社に投資したんだ」どちらも当事者の説明だから、片方を正解にはしない。

 AAAにはAAAの価値があり、CMLLにはCMLLの歴史がある。その中へ、WWEとAEWがそれぞれ違う形で入ってきた。買ったWWEと、組んだAEW。では本家はどうしているか。

 CMLLはアレナ・メヒコとアレナ・コリセオを自前で持っている。1956年にアレナ・メヒコを建てたのはサルバドール・ルテロート。いまCMLLを持っているのは、その孫のサルバドール・ルテロートIII世である。3代続いて同じ家に住み、国外へツアーに出る野心も無い。自分の箱で興行を打ち、足りない人は外から借りる。

CMLLが借りてきた人を辿っていくと、そのまま日本まで繋がっていく

 CMLLが借りているのはAEWである。ミスティコ、ペルセフォネ、エチセロ、マスカラ・ドラダ。いずれもCMLLとAEWの二重契約で、ペルセフォネに至ってはCMLL世界女子王者でありながらAEW TBS王者でもある。

 そして9月18日の93周年には、そこに日本人が並ぶ。新日本のザック・セイバーJr.。スターダムのスターライト・キッド、舞華、星来芽依、儛島エマ。

 一方、WWE側に立っているのは元AEWの選手たちだ。この夜SmackDownに出たレイ・フェニックスもリッキー・セインツも元AEW。9月14日のRawでローマン・レインズに挑むPENTAも元AEWである。AEWを出た人間がWWE側に並び、AEWに残った人間がCMLL側にいる。

 WWEは日本で大会を打つだけでなく、放送と配信とライブイベントを組み合わせて、市場への足場を作ってきた。一方、AEWは新日本プロレスと提携している。その新日本とAEWの関係について「新日本の選手やブランドがAEWにうまく使われているのではないか」という見方が、ファンの側から出ることがある。

 だが、新日本の側も受け身でこれを見ているわけではない。9月9日、後楽園ホール。9月27日神戸でのクラウディオ・カスタニョーリ戦が決まった鷹木信悟が、AEWについてこう話している。

「最後のシングルで負けたままの(ウィル)オスプレイ、連敗してるオカダ(カズチカ)、同じく連敗してる(ジョン)モクスリー…。彼らにやり返したいって気持ちは常に持ってるけど、AEWに都合よく使われる気はないから。しっかり蹴散らして、新日本でUCここにありって戦いを見せたいのが一番かな」

 そして、その鷹木が神戸で戦う相手が、いま一番わかりやすい場所に立っている。クラウディオ・カスタニョーリ。9月18日、アレナ・メヒコのCMLL93周年で、CMLL世界ヘビー級王座の3WAYに出る。相手は王者エチセロ(AEWと二重契約)と、新日本のザック・セイバーJr.。その9日後の9月27日、カスタニョーリは神戸で鷹木と向かい合う。

 一人の選手が、9日のあいだにアレナ・メヒコと神戸の両方に立つ。団体の境界線はある。だが選手は、その線を簡単に越えていく。誰が誰を使っているのか。

 AEWがCMLLを使っているのか。CMLLがAEWを使っているのか。AEWが新日本を使っているのか。新日本がAEWを使っているのか。あるいは双方が、互いの市場と人材とブランドを使いながら、それぞれの目的を果たしているのか。

 国際化は、市場の取り合いでもある。誰の選手がどこへ行って価値を上げるのか。上がった価値は、元の団体へ戻ってくるのか。そこまで含めて、いま各団体が綱を引き合っている。

 答えを急ぐ必要はない、と書こうとした。だが、その問いのWWE側の答えだけは、9月11日の夜に出てしまった。しかも本人たちの口から出た。

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