[週刊ファイト09月17日]期間 [ファイトクラブ]公開中
▼棚橋弘至ら見つめる前、逆エビ固め吠えたタコ坊主・畑澤優心デビュー
Photo:HIROKI スープレックス豪編
・畑澤優心が泣かされた7分15秒 足を止めて見ていた男たちがいた
・全試合結果一覧 メインは9・27神戸と9・23札幌のダブル前哨戦
・小学生の終わりに彼は客席にいた「自分がこういう立場になりたい」
・プロレスラーを目指し相撲を始めた 函館水産高校3年で全道3位
・就職して働きながら身体を作った 憧れの選手に棚橋弘至を挙げた
・スクワット1000回、腕立て100回 新日本プロレス入門テスト
・一度落ちた男と、ケガで一度道場を離れた男が同じ夜のリングにいた
・そして9月9日、18時。184センチの新人が泣かされた7分15秒
・その7分を見ていた男たち 棚橋弘至は厳しい顔でこの試合を見た
・そして田口隆祐に靴下をいじられた ファミマではなくローソンを履け
・「やっとプロレスラーになることができました」まだ理想の形はない
・6日後、新日本プロレスは北斗市へ 土俵で越えられなかった町に行く
・第7試合 9・27神戸と9・23札幌へのダブル前哨戦 辻が後藤に一撃
・第6試合 鷹木信悟vsカスタニョーリが9・27神戸で決まった試合
・第5試合 ウルフvs藤田のNEVERと、上村vs大岩のG1決勝の続き
・第4試合 9・19室蘭のタッグ挑戦者決定戦へ 先に星を取ったK.O.B
・第3試合 9・27神戸のコブvsカラム前哨戦 古巣に矛先を向けたコブ
・第2試合 9・23札幌への前哨戦 シュン・スカイウォーカーの神戸挑戦
・第1試合 海野翔太の復帰3戦目とHENAREの怒りが噴き出した試合
・第0試合 畑澤優心デビュー戦 この日ただひとつ「次」のない試合
■ 新日本プロレス Road to DESTRUCTION
日時:9月9日
会場:後楽園ホール 観衆1102人(主催者発表)
畑澤優心が泣かされた7分15秒 足を止めて見ていた男たちがいた

新日書く度に私は心臓がバクバクする。今日は実はもう心の臓が飛び出ているかもしれない。なぜならウルフ・藤田でもなく、大岩・上村でもなく畑澤優心メインで書くからです。ま、また編集長に怒られる。胃が痛い・・・。
9月9日、後楽園ホール。観衆1102人。この日のメインは、9月27日の神戸でIWGPヘビー級のベルトを賭けて戦う辻陽太と後藤洋央紀の前哨戦だった。セミでは鷹木信悟がAEWのクラウディオ・カスタニョーリを神戸に呼び込んだ。
ウルフアロンは藤田晃生に「そんなにプロレス好きじゃねえだろ?」と煽られた。それでも私は、正直その試合にしか心が動かなかった。見終わって何が印象に残ったか。そこにはあのタコ坊主しかいなかった。
まだ客席が埋まりきらない18時、第0試合。184センチの新人が、自分より小さい先輩に、逆エビ固めで泣かされた7分15秒。その7分を、足を止めて見ていた男たちがいた。
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全試合結果一覧 メインは9・27神戸と9・23札幌のダブル前哨戦
<第7試合 スペシャルタッグマッチ 30分1本勝負>
後藤洋央紀 ○YOH
13分30秒 外道クラッチ
辻陽太 ●石森太二
※YOH、外道なマイクでアンバウンド挑発「新日本プロレスに…革命が起こるぞ」
<第6試合 30分1本勝負>
○鷹木信悟 ロビー・エックス
11分40秒 バーニングドラゴン⇒体固め
ボルチン・オレッグ ●マスター・ワト
※クラウディオ・カスタニョーリが鷹木を挑発し、9・27神戸での一騎打ちが決定的に!鷹木「もうこれ以上、AEWに都合良く扱われるのはゴメンだ! 神戸で終わりにしてやるよ、クラウディオ、そしてAEW!」
<第5試合 30分1本勝負>
ウルフアロン ○上村優也 タイチ
9分37秒 ライオンズシャイナー⇒片エビ固め
大岩陵平 ●ハートリー・ジャクソン 藤田晃生
※藤田、ウルフを徹底挑発。「オマエよ、新日本に入ったときも思ったけどよ、そんなにプロレス好きじゃねえだろ? 見てたらわかるんだ。オマエは柔道家」
<第4試合 30分1本勝負>
Yuto-Ice ○OSKAR 外道
8分3秒 ナイトメアホールド
真壁刀義 矢野通 ●邪道
Ice、真壁&矢野を徹底罵倒「あんだけよ、コケにしたらオマエら少しは変わるんじゃねえのか?」
<第3試合 20分1本勝負>
○ジェフ・コブ 永井大貴
10分23秒 ツアー・オブ・ジ・アイランド⇒片エビ固め
カラム・ニューマン ●ゼイン・ジェイ
<第2試合 20分1本勝負>
DOUKI SHO ○シュン・スカイウォーカー
9分54秒 SKYFALL⇒体固め
エル・デスペラード 田口隆祐 ●安田優虎
※シュン「わざわざ天空から帰ってきたのに、その闘い場所として選んだここ新日本プロレス、こんなもの?」
<第1試合 20分1本勝負>
HENARE グレート-O-カーン ○ジェイコブ・オースティン・ヤング
12分18秒 スパイラルブレーンバスター⇒片エビ固め
海野翔太 YOSHI-HASHI ●中原大誠
<第0試合 畑澤優心デビュー戦 10分1本勝負>
○松本達哉
7分15秒 逆エビ固め
●畑澤優心
※畑澤「この体で気持ちを前面に出して、お客さんに少しでも気持ちを伝えるレスラーになって、少しずつ成長していきたいです」
▼新日6上村優也x大岩陵平 晃生「お前、プロレス好きじゃないだろ」ウルフアロン
小学生の終わりに彼は客席にいた「自分がこういう立場になりたい」

畑澤優心(はたざわ・ゆうしん)。北海道函館市出身、20歳。184センチ、95キロ。試合後、彼はこう話している。「自分が初めて会場に行ってプロレスを観て、そこでもの凄く楽しくて、次は自分がこういう立場になりたいと思いました」
それはいつのことか、と質問されて、「小学校卒業して中学あがる前の頃です」と答えている。
2005年10月生まれだから、畑澤が12歳の年。客席から見て、自分もあそこに立つ、とすでに彼の気持ちは夢で膨らんでいた。その8年後が、この日だった。
プロレスラーを目指し相撲を始めた 函館水産高校3年で全道3位

新日本プロレスの公式プロフィールには、こうある。「プロレスラーを目指し高校の部活動で相撲を始め、全国大会や国民体育大会に出場するがいずれも予選敗退」
畑澤の叔父はデビューが決まった8月17日にこう書いていた。「函館水産高校では相撲部で頑張り相撲の世界に入るのかな〜と見ていたらプロレスやりたいと」自分の甥がプロレスラーの道に進むとは考えていなかったようだ。
2023年7月、北海道北斗市の広報誌に畑澤の名前が掲載されている。その年のインターハイ相撲競技が北斗市で開かれることになり、地元から出る高校生が紹介されたからだ。「個人無差別級 全道3位 函館水産高校3年 畑澤優心さん」全道3位。
当時畑澤は次のようにコメントしていた。「今までお世話になった先生や先輩方に、少しでも成長した姿を見せられるよう、また、今まで支えてくれた親に恩返しができるように力いっぱい取り組みたいです」
地元で開かれるインターハイを前にして、先生と先輩に成長した姿を見せる。支えてくれた親に恩返しをする。17歳の畑澤優心がそこにいた。

全道3位になるまでの道も、対戦相手校のブログに記録が残っている。2023年6月4日、インターハイ予選。会場は函館水産高等学校相撲場。畑澤の母校だ。団体戦、中堅。畑澤は大野農業高校の平川に押し倒しで敗れた。
だが個人戦の無差別級で、畑澤は勝ち上がる。準々決勝、大野農業の主将・竹山を引き落しで
下してベスト4。そして準決勝で、また平川と当たった。寄り切り。畑澤は土俵を割った。その平川が、決勝でバータル(北海道栄)を勇み足で下して優勝している。
北斗市の広報誌には、その平川も載っている。「個人無差別級 全道優勝」。竹山は相撲部の主将として団体戦に出た。畑澤が5月の函館地区大会で寄り切りで倒した阿保友馬は「個人80キロ級 全道優勝」。
1年生の鈴木一二三は「個人100キロ級 全道優勝」。畑澤が高校3年で毎週のように当たっていたのは、全道優勝者が3人いる学校だった。そしてその紙面に、畑澤も「全道3位」として並んでいる。
5月27日の函館地区大会でも、畑澤は平川に2度負けている。勝てない相手には勝てない。それでも、全道チャンピオンになる阿保からは白星を勝ち取った。新日の公式に掲載されている「予選敗退」の一行の中身は、そういう三年間だった。
就職して働きながら身体を作った 憧れの選手に棚橋弘至を挙げた

高校を出て、畑澤は一度就職している。公式にはこうある。「高校卒業後、一度就職して働きながらトレーニングに励み、2024年の入門テストに合格し2025年4月に新日本プロレスに入門」
働きながら、身体を作り続けた。そして入門テストを受けて、合格。相撲で全道3位まで行った男が、土俵を降りて、働きながらプロレスラーになった。
入門から練習生としておよそ1年5か月。小学校を卒業する頃にプロレスラーになりたいと思ってから、9年ほど。土俵を降りてから、3年半。2026年9月9日、後楽園ホール。なぜプロレスだったのか。憧れの選手を聞かれて、畑澤は棚橋弘至の名前を挙げた。「理由は試合の感情、スタイル、全てがカッコ良くて、棚橋選手に近寄ってました」
畑澤は2005年生まれだ。物心ついてプロレスを見ていた2010年代の半ばは、オカダ・カズチカがいて、内藤哲也がいて、ケニー・オメガがいて、ウィル・オスプレイがいた時代である。その中で、この20歳は棚橋を選んだ。
スクワット1000回、腕立て100回 新日本プロレス入門テスト

「入門テスト練習生、随時募集中! 未来の新日本プロレスリングを担う若者よ来れ!」応募基準は、18歳以上23歳以下で、身長170cm以上の健康な男子。20歳以下は親の承諾が要る。畑澤は2005年10月生まれだ。高校を出た2024年に受けて、合格。
履歴書と全身写真と上半身写真、スポーツ歴を書いた書類を郵送する。身長と体重の明記が無い書類は不合格となるのでお気を付け下さいとの記載もある。身長と体重を書き忘れたら、それだけで終わる。
うっかり者の私くらいでないと、書き忘れるものはいないかもしれないが、コーヒー飲みながらシミ作っちゃいましたとか、やっちゃうかもしれないので、気をつけなければならない。ポテチ食べながらとかやると、油は天敵だ。侮るな。
冗談はさておき、同じページに「在学中・在職中も応募可」ともある。畑澤が通ったのは、その道だ。
書類が通った者だけが、道場に呼ばれる。公式が挙げている体力テストの中身はこうだ。スクワット1000回、腕立て伏せ100回、懸垂20回、ロープ登り、腹筋100回、背筋、ブリッジ、
ダッシュ、反復横とび、スパーリングほか。
スクワット1000回である。昔からこの数字だったわけではない。2009年に新日本がマスコミへ公開した入門テストはスクワット300回、腕立て50回だった。2013年の公開オーディションでは500回になり、公式の記事にはこう書かれている。「最後はヒンズースクワット500回が行なわれ、そのあまりの過酷さにリタイヤするテスト生が続出!」500回でリタイヤが出ている。いまは1000回だ。
合格すると寮に入る。練習生は新日本プロレスと練習生契約を結ぶ。寮費と食事代は会社が持ち、諸手当がつき、大会にも帯同する。道場は多摩川の近くの住宅街にあって、その横が選手寮である。
そして公式には、デビューまでの目安がこう書かれている。「審査の上で半年から1年でデビュー(個人差あり)」畑澤は、1年5か月かかっている。
一度落ちた男と、ケガで一度道場を離れた男が同じ夜のリングにいた

テストに一度で受かるとは限らない。9月9日の後楽園には、そういう男が二人いた。第1試合で負けた中原大誠。公式プロフィールにこうある。「大学在学中に新日本プロレスの入門テストを受けるも不合格。2度目の入門テストで合格し、大学卒業後の2023年4月に入門」
続きはこうだ。「そこから長い練習生期間を経て、2026年3月4日、後楽園ホールでデビューをはたす」2年11か月の練習生期間。デビューは畑澤と同じ後楽園ホール、その半年前だった。
第2試合で負けた安田優虎は。「2019年12月の入門テストに合格し、2020年6月に一度入門したものの、翌21年6月にケガにより離脱。1年3カ月の治療とリハビリを経て、2022年9月に再入門を果たした」1年3か月かけて戻り、2024年6月16日、札幌の北海きたえーるでデビューした。その安田が、9日の夜に畑澤へこう伝えた。「新たな道民レスラーですね」
そして、畑澤を逆エビ固めで落とした松本達哉。公式のデビュー告知にはこうある。「高校卒業後から入門までの5年間はパーソナルトレーナーとして活動」「2023年度の入門テストで合格し、2024年4月入門」
高校を出て、一度社会に出て、働きながら身体を作って、テストを受けた。畑澤と同じ道だ。松本のほうが5年長く外にいて、デビューは1年2か月早い。
棚橋弘至が最初に入門テストを受けたとき、試験官は橋本真也で、志願者は35人ほど。その回は合格者が一人も出なかった。棚橋が受かったのは3回目だったそうだ。2005年、後楽園ホール大会の試合前に公開入門テストが行われた回は、内藤哲也がただ一人受かった。2013年10月の公開入門オーディションは、13人が受けて2人。夢はそんな簡単に叶えられるものではない。