ワールド女子プロレスディアナが性的写真を繰り返しSNSに投稿していた人物を訴訟した事案は、約2年に及ぶ裁判を経て、2025年2月27日に和解に至った。各女子プロレス団体で同様の問題を起こしてきた投稿者に対し、ディアナが法的措置を取った事で今回の裁判になったのだが、女子プロレス業界全体で取り組むべき問題で各団体足並みを揃えられなかった事実は重く、和解を経ても問題が完全に解決したとは言い難い。
ディアナが動かなければニュースにもならなかった事案について、本誌で徹底解説していく。
[週刊ファイト3月27日]期間 [ファイトクラブ]公開中
▼ディアナ卑猥写真投稿者訴訟和解決着も解決断言できぬワケ
photo & text by 鈴木太郎
・法的措置踏み切ったディアナの素晴らしさ。
・『撮影罪』制定前から独自ガイドライン設けたディアナ。
・和解決着も盗撮問題解決へ足並み揃わぬ業界の失態。
・各団体で問題を起こしていた投稿者。
・和解内容が他団体でも共有されるのか?
・ディアナの活動に名を連ねていない大手女子団体
・ディアナが動かなければ、大事にならず終わっていた。
・女子プロレスでスポーツ盗撮問題対策が出来ない後ろめたさ。
・足枷となっている、性的目線を押し出している現状。
2025年2月27日、女子プロレス選手の股間や臀部などの身体の一部を、アップしたり性的に強調したりしたとされる写真がSNS上に繰り返し投稿されていた問題に関して、特定した投稿者に法的措置をとったワールド女子プロレス・ディアナが裁判上の和解に至ったと発表した。和解内容は以下の通り。
・被告は、当団体および選手に対し、精神的苦痛を与えたことを認め謝罪・解決金として計100万円(当団体および選手に各50万円)を支払うことを確約
(既に着金済み)
・被告は、当団体の興行への来場禁止および、当団体選手が他団体に出場する試合中の会場退出を確約・当団体および選手に関する一切の情報発信を禁止
(違反時は1回につき10万円の違約金)
・被告の個人情報は公表しないが、今後違反行為があった場合には適切な対応を実施
ディアナの発表によると、「2023年4月に試合中の女子選手の身体の一部を強調した写真や画像がSNSなどに投稿され、選手が試合に集中できないほどの不安を抱える事態が発生。」したといい、「2023年6月5日より問題解決に向けた対応を開始し、2024年1月23日に被告を提訴、全8回にわたる裁判を経て、2025年2月17日、和解に至りました。623日間の活動でした。」と報告している。
近年、陸上競技やバレーボールなどにおいて、観客による盗撮問題が顕在化しており、スポーツ専門媒体でも度々取り上げられている。2024年にスポーツメーカーのミズノが、パリ五輪日本代表選手が着用するユニフォームに「アスリートに対する盗撮」というテーマを設けた上で、他社と協業して開発した『赤外線防透け生地』を採用。繊維に赤外線を吸収する素材を用いたことで、高機能化したカメラによる盗撮被害を防ぐ狙いがあるのだという。
プロスポーツでは、会場での写真撮影をスマートフォンに限定した事例も存在する。筆者が2024年にプロの女子バレーボールチームの試合を観戦した際は、「スマートフォン撮影のみ可能」という文言が書かれた貼り紙が会場の座席付近など至る所に貼られており、一眼レフカメラやミラーレスカメラといった専用機材では撮れないようになっていた。
では、プロレス業界に関してはどうだろうか?今回のような事案が起きた際に裁判を起こして争ったケースは、恐らく今回が初めてではないだろうか?
近年顕在化したスポーツ界の盗撮被害に対抗する流れとして、今回のディアナが起こした訴訟事例は非常に注目すべきものだと筆者は考えている。今回、和解という形ではあるものの、被害を受けた女子プロレスラーを守り、会社として毅然と対応したディアナの姿勢は評価されてしかるべきだろう。後述するが、本来この件は大手団体が本来対応すべき事案だったにもかかわらず、抑止力となるアクションを起こすことなく後手後手の対応となっていた状況で、ディアナが先陣を切る形で訴訟に動いている。
『撮影罪』制定前から独自ガイドライン設けたディアナ
今回の訴訟と同時期に、2023年7月15日に『性的姿態等撮影罪(せいてきしたいとうさつえいざい)』が施行された。同法は「正当な理由がないのに相手の同意なく性的姿態等を撮影・盗撮する犯罪」であり、『撮影罪』とも呼ばれている。
この法律が施行されたことにより、性的な姿態を撮影する行為やこれによって生成された記録を提供する行為等を処罰し、さらに性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収が可能になったのだという。性的姿態は以下のものが該当する。
・人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部)
・人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられているもの)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
・わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態
このような撮影罪が新設されたことによって、盗撮行為が厳罰化されることになり、『撮影罪』に該当するような性的姿態等の撮影を行った場合、「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」の刑罰が課される。これまで、盗撮などの撮影行為そのものを規定するような条文の刑法は存在していなかったことから、盗撮などの行為については各都道府県の迷惑防止条例によって処罰されてきたのだという。
迷惑防止条例では「住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような」場所や乗物において、「人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」が禁止されており、違反した場合は「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」が課される。
今回のディアナの場合、『撮影罪』などの【性犯罪に関する規定全般を見直す刑法等の改正案】が出された2023年6月23日よりも前に、弁護士監修の下、団体独自の『撮影及び画像お取り扱いガイドライン』を制定している。
・試合の状況が伝わらない程に下半身等特定の部位にフォーカスがあたっている写真
・どちらの選手も表情等が特定できない上に下半身等特定の部位にフォーカスが当たってしまっている写真
・試合中のダウン時等不可抗力的に選手の下半身等特定の部位があらわになっている場合の写真
いずれも、試合中の写真を客席で撮っていればフォーカスしない箇所だと思われるのだが、そのようなガイドラインを制定しても今回の投稿者には響くことなく、翌2024年にディアナが投稿者を提訴するに至っている。今回の訴訟では『撮影罪』における「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」にはならなかったものの、「投稿者が謝罪・解決金として団体と被害選手1名に各50万円を支払う和解案」が認められたため、迷惑防止条例の罰則より重い内容を取り付けたことは大きいと言えるのではないだろうか?