[ファイトクラブ]プロレス界 本日モ 反省ノ 色ナシ

[週刊ファイト4月4日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼プロレス界 本日モ 反省ノ 色ナシ
 by 安威川敏樹
・ボクシングでも起きた不幸、危険防止はスポーツ界の流れ
・安全に関する認識が乏し過ぎるプロレス界
・安全管理のできない団体はプロレスを廃業すべし
・安直に離合集散が繰り返される日本のプロレス界
・時代に逆行する”レスラー兼社長”
・UJPWが『合同興行のためだけの連盟』では無意味


 筆者は今、プロレス・ライターという仕事を放棄しようかと考えている。
 なぜか? それは、筆者がプロレス界に関して希望的観測を書けば、必ず裏切られるからだ。

『プロレス人気に復活の兆し』なんて記事を書けば『ワールドプロレスリング リターンズ』が午後9時からの放送に格下げされるし、日本プロレスリング連盟(UJPW)の発足に関して歓迎する記事を書いた途端に今年に入るとプロレス界は暗い話題ばかり。

 いっそのこと、筆者がプロレス界の批判記事を書いたら、反対に良いことが起こるかも知れない。そう期待するしかないが、正直言って今回は書くのが憂鬱で、ペンが進まないのが実情だ。
 ちなみに、今回のタイトルは1985年にダン池田氏が書いた暴露本『芸能界 本日モ 反省ノ 色ナシ』のパクリである。

ボクシングでも起きた不幸、危険防止はスポーツ界の流れ

 今年に入り、早くも2人の現役プロレスラーが亡くなった。朝陽さんと吉江豊さんである。吉江さんは享年50歳、朝陽さんに至っては21歳という若さだ。
 今年に入ってまだ3ヵ月も経っていない、1年の約5分の1の時期に、2人も若い命を落としたのである。

 吉江さんは試合後に容態が急変したと言い、朝陽さんは試合の翌日に『不慮の事故』で急逝したと発表された。朝陽さんの場合は、試合や練習が原因ではないという。
 いずれにしても、真相は闇の中だ。原因究明はされていない。

 不幸が起きたのはプロレス界だけではなく、ボクシング界でも同様だ。穴口一輝さん(享年23歳)と坂間叶夢さん(同20歳)である。
 穴口さんは試合後に亡くなり、坂間さんは試合をキャンセルし、そのまま帰らぬ人となった。

 坂間さんの死因は過度の減量にあると思われるが、ボクシングの場合は減量の危険が常に付きまとう。最近では、漫画『あしたのジョー』に登場する力石徹のような常軌を逸した減量はタブーとされ、適正体重を元に体重調整する。
 それでも、このような事故が起きてしまうのだ。それだけ体重調整は難しく、たとえば故障等で練習不足になると思うような減量が出来ず、試合が近付くと焦ってしまい過度な減量をして、不幸を招くことになる。減量の大敵は水分で、水分補給を制限したために脱水症状を起こし、これが命取りになるのだ。

 試合はもっと危険である。グラブで顔面を殴り合うボクシングは、脳にダメージが残りやすい。それだけにボクシングでは、試合前の計量はもちろん、メディカル・チェックも厳しく行う。
 試合中もリング・ドクターが常に目を光らせ、レフェリーはボクサーの状態をチェックし、異常があれば直ちにドクターの診断を受けさせる。

 穴口さんの場合、試合を止めるのが非常に難しかったという。4度もダウンを奪われたとはいえ、ポイントでは穴口さんが上回っており、そのような状態では試合を止めにくい。
 ラウンド間でも穴口さんの受け答えはしっかりしており、試合続行可能と判断された。それでも不幸は起きてしまうのだ。

 この事故を受けて、日本ボクシング・コミッション(JBC)は直ちに事故検証委員会を設置した。弁護士や医療関係者などがメンバーで、事故原因を検証し、再発防止に努める。
 事故防止の動きは格闘技界のみならず世界のスポーツ界全体で活発になっており、たとえばコンタクトの激しいラグビーでは危険なタックル等は厳しく取り締まられ、頭を打った選手は一時的に退場して脳震盪のチェックを受けなければならない。

安全に関する認識が乏し過ぎるプロレス界

 プロレス界の事故防止策はどうなのだろうか。ハッキリ言って、他のスポーツに比べるとかなり甘いと言わざるを得ない。
 団体にもよるだろうが、試合前にまともなメディカル・チェックなどほとんど行われていないのが実情ではないか。むしろ、体調が悪かったり、怪我をしたりしていても試合に出場するのがプロレス界では美徳とされる。

 美徳というより、どんな状態でもやむを得ず出場しているというべきか。どのプロレス団体でも経営が苦しく、スター選手の欠場は即チケットの売り上げに響いてしまう。団体の存続にかかわる事態になるのだ。
 スター選手ではなくても、年俸制ではなく試合給の団体では欠場が生活を直撃するため、無理をしてでも出場する。いや、年俸制の団体でも、欠場すると他のレスラーに地位を奪われてしまうので、怪我や病気を隠すこともあるだろう。

 三沢光晴さんがリング禍により46歳で亡くなった時、試合前から誰の目にも三沢さんの体調が万全ではないことは明らかだった。それでも、エース社長である三沢さんがリングに立たないとファンは納得せず、また経営難に喘いでいたプロレスリング・ノアにとって三沢さんの存在は不可欠だったのだ。
 しかも、この試合ではリング・ドクターがいなかった。三沢さんがマットに倒れた時、飛行機内よろしく「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」とアナウンスしていたのだ。

 メジャー団体の一つとされた当時のノアですら、こんな状態だったのである。インディー団体ではどうなのか、推して知るべしだろう。
 三沢さんの死を受けて、統一コミッションの必要性が叫ばれた。それから14年も経ってようやく昨年の暮れ、日本プロレスリング連盟が発足されたのである。同連盟については後述しよう。

 ショー・ビジネスであるプロレスを、他のスポーツと同列に語るのは無理があるのかも知れない。それでも、危険度は他のスポーツに勝るとも劣らないのだ。
 そもそも、プロレスがいかに危険かとやたらアピール(コンプレックスに裏返された自慢)する割には、安全性に関する認識が乏し過ぎる。そんなに危険なスポーツならば、安全対策を万全にすべきなのだ。

 あれだけメディカル面でチェックの厳しいボクシング界ですら、リング禍が起こるのである。

安全管理のできない団体はプロレスを廃業すべし

 アントニオ猪木さんが上田馬之助さんとネイル・デスマッチを行ったときは警察から「絶対に釘の上に落とすな」と言われ、その猪木さんとの異種格闘技戦で空手家のウィリー・ウィリアムスさんが素手で試合することを警察が禁じたという。
 事の真偽はともかく、警察にそんな権限が本当にあるのなら、リング・ドクターのいないプロレス興行には許可を出すべきではないだろう。

 そもそも、練習の段階から医療体制が整っていない団体は、プロレス団体を名乗る資格がない。リング・ドクターを常駐させるか、外部の医師や病院と提携すべきである。
 もちろん、試合前はメディカル・チェックを行い、体調不良あるいは重度の故障があるレスラーには試合をさせない。当然、試合中はリング・ドクターがレスラーの状態をチェックする。

「そんな経費をかけられるわけがない。プロレス経営がいかに大変か、判って言っているのか!」とプロレス団体からお叱りを受けそうだが、そんな認識こそ改めるべきだ。
 プロレス団体とは、プロレス興行だけにカネを掛ければいいのではない。医療体制に資金を投入するのは絶対不可欠なのだ。

 それができないような団体は、プロレスを廃業すべきである。こんなことは他のスポーツでは常識なのだが、プロレス界ではその常識が通用しない。
 だから無秩序にプロレス団体が乱立し、事故が多発するのだ。また、死亡事故が起きても原因を究明しようとせず、臭い物にフタをしようとする。

 さらに、体のケアだけではなく、心のケアも必要だ。プロレス界は精神論を振りかざしながら、本当の意味での精神は軽視する。
 プロレス界だけではなく、日本の体育会気質はその傾向が強いが、他のスポーツではカウンセリングの必要性が認識されるようになってきた。しかし、プロレス界ではこの点でも遅れている。

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