2013年デビューで今年10周年を迎える夏すみれが、スターダムとタッグを組んで自身のプロデュース興行を開催した。スターダム主催の興行でプロレスリングWAVEの色も取り入れる光景など、双方の代表の関係性を鑑みれば数年前なら考えられなかった景色であったが、それを実現させたのは夏すみれの手腕故か。一夜限りの気質が強い興行であったが、今大会で散らばった無数の点は、果たして今後線として結びつくのだろうか・・・?
[週刊ファイト10月26日号]収録 [ファイトクラブ]公開中
▼点が線になるか? 夏すみれ10周年×STARDOM特別興行総評
メイン敗戦も「スターダムだけが女子プロレスじゃない」宣言
photo & text by 鈴木太郎
・夏プロデュース興行満員盛況は不変
・スターダム勢多数参戦も課題は点⇒線
・興行の満足度確保したメインイベント
・林下詩美欠場X=刀羅ナツコ-VENY戦に見る欠場者続出の台所事情
・代打参戦に見る、試合の質と方向転換
・痛手だったセミファイナルでの薄れた勝負論
・WAVE名物Yシャツマッチ制したのはプロ初勝利のEvo女・Chi Chi!
・スターダム勢多数参戦Yシャツマッチは印象薄の皮肉
・葉月&コグマ『FWC』高いコミカルマッチ対応力見せつける
・期待値抱きにくいカードを引き上げたFWCのアジャスト力
■Decade of Queens ~夏すみれプロデュース10周年大会~
■日時:2023年10月18日(水) 19:00開始
■会場:東京・新宿FACE
■観衆:494人(超満員札止め)
2023年にデビュー10周年イヤーを迎え、同年春にはプロレスリング・ノア初の女子プロレスマッチに登場するなど、多数の団体に参戦している夏すみれが、10・18新宿FACEにて自身のプロデュース興行を開催した。これまでにも、自主興行に加えてフリーの女子選手達を中心にしたフリーランスユニット『NOMADs』を複数回開催し、いずれも満員大盛況で終わらせた実績を残す夏すみれだが、今回は女子プロレス界トップをひた走るスターダムとタッグを組んでのコラボレーション興行だ。
チケット販売当日には殆ど全てのチケットが完売し、開催直前には急遽立見席を設けるなど、平日夜興行にもかかわらず、新宿FACEには500人近い観衆が詰めかけた。


今回の興行はスターダムによる強力なバックアップの下で行われたプロデュース興行の為、過去の夏すみれ自主興行や『NOMADs』とは雰囲気を異なるものにしていた。2013年デビュー組で固めたメインイベントを除き、セミファイナルまでの3試合にはスターダム勢が多数参戦したものの、今後団体で線になりそうな勝負論のあるカードは少なく、あくまでも読み切りマンガに近い感覚を抱いた。
そうした一夜限りになりそうな点同士が辺りを漂う中、オープニングマッチの葉月と青木いつ希、Yシャツマッチでの飯田沙耶とZONESの邂逅、セミファイナルのVENYと刀羅ナツコの因縁勃発、メインのAZMと小林香萌によるマッチアップは、今後の線として結び付きそうな刺激を孕んでいた。
悪くない興行ではあったが、正直なところ、過去の夏すみれ自主興行や『NOMADs』の満足度に比べてしまうと幾らか不足を感じてしまう箇所は否めない。それでも、この点が今後の線に繋がったのなら、スターダムとのコラボレーションの意義は非常に大きなものになるだろう。

夏すみれメイン敗戦も「スターダムだけが女子プロレスじゃない」宣言
<メインイベント 6人タッグマッチ>
●夏すみれ 山下りな 小林香萌
(25分37秒 ランニングスリー⇒エビ固め)
○彩羽匠 赤井沙希 AZM


レフェリーを務めた石黒敦士を含め、メインイベントに登場した6選手全員が2013年デビューという共通項を持つ、事実上のデビュー10周年記念試合。フリーランス、Marvelous、DDTプロレスリング、スターダムと団体やルーツの垣根を超越した豪華カードは25分越えの熱戦となった。プロレスリングWAVE時代から『NOMADs』に至るまで付き合いの長い小林香萌と山下りなをパートナーに迎えた夏すみれは、異なる団体に所属する同期3選手と対戦。
この試合で刺激的要素となったのは赤井沙希とAZMだろう。11・12 DDTプロレスリング両国国技館大会を以て引退を発表している赤井沙希は接点の薄かった夏すみれとのマッチアップで強烈な蹴りを刻み付けた。夏のスターダム参戦時代に抗争を繰り広げていたAZMは、小林香萌とのハイスピードな攻防で次の線への期待値を膨らませたのである。少なくとも、この1試合で大会全体の満足度の半分は確保していたと言い切れる熱闘がそこにはあったが、最後は彩羽匠が夏すみれからランニングスリーで勝利した。


試合後、夏すみれはデビューしたプロレスリングWAVEと同団体の会長を務めるGAMI、WAVE退団後に参戦して今大会の主催も務めたスターダムに対する感謝の念をコメント。10年という節目でプロレスを辞めようとしていたという夏が、いつの間にかプロレスを辞められなくなっていたと語る姿からは、今現在のキャリアの充実度を窺わせるものがあった。
スターダムが業界トップであることを認め、先頭を走る事への尊敬の念を抱きながらも「スターダムだけが女子プロレスじゃないんですよ」と語るコメントは、以前に『NOMADs』でコメントした決意表明と異なり、大手団体を明確に意識したものであったと言えよう。