[ファイトクラブ]大日本 加藤拓歩引退に見る完全燃焼と所属勢悔恨!見送る側の未練

 2023・9・28、大日本プロレスの加藤拓歩が約5年9ヶ月のキャリアに終止符を打った。2023年には年間最大ビッグマッチでのタッグ王座挑戦や岡林裕二の無期限休業前最後の相手を務めるなど団体内での役割は高まっていたように外野からは感じたのだが、引退試合では後悔も未練も驚くほど無い加藤の姿が見られたのである。しかし、それは決して否定的な意味ではなく、加藤自身の先に進もうとする強い意志を垣間見た瞬間でもあったのだ。


[週刊ファイト10月12日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼大日本 加藤拓歩引退に見る完全燃焼と所属勢悔恨!見送る側の未練
 photo & text by 鈴木太郎
・新木場1stRING:達観する当事者と、後悔滲む先輩・パートナー
・引退ショックも贈りたいエール
・邪推以上に感じられた、本人の強い意志
・加藤拓歩5年9ヶ月プロレス人生閉幕も完全燃焼!
・まさに”黒船”エンデル・カラ&レイトン・ハザード所属勢圧倒勝利
・関本大介ストロングヘビー&アジアヘビー王座名乗りで二冠制圧宣言
・デスマッチヘビー『石川勇希-若松大樹』挑戦者若松勝利で本戦弾み
・新鮮と刺激が同居した『道路工事現場タッグデスマッチ』
・星野勘九郎久々新木場勝利狙うも橋本和樹阻む


■大日本プロレス『特別興行~I don’t know what to do』
■日時:2023年9月28日(木) 19:00開始
■会場:東京・新木場1stRING大会
■観衆:305人

「周りが泣いているのに、涙が出てこないんですよね。すいません、どこか達観している自分がいて。」

 引退試合を終えた直後にもかかわらず、加藤拓歩の口から出た言葉の数々は、驚くほどに冷静だった。2023年9月28日、大日本プロレス新木場1stRING大会。大日本プロレスのストロングBJ戦線の将来を担うと思われた加藤拓歩が、この日、2018年1月2日のデビューから約5年9ヶ月に及ぶキャリアに幕を下ろした。
 本年の5・4横浜武道館大会ではBJWタッグ王座にも挑戦し、6・30新木場1stRING大会で行われた岡林裕二の休業前ラストマッチでもシングルで相手を務めるなど、これから飛躍の時を迎えると思われたタイミングで突如として発表された引退。会見では、約1年前から引退を考えていたという衝撃の内容が明かされたものの、そのような素振りも噂も全く無いところでの急展開はファンに衝撃を与えた。関本大介や岡林裕二といった先人が築き上げた、ストロングBJブランドを継ぐ存在になると思われただけに・・・。

 今回の引退に際し、団体関係者だけでなく、大日本プロレスにレギュラー参戦している阿部史典も加藤に対して引退を慰留するよう説得したのだという。それでも、引退するという加藤の意思は固かった。引退していく者は、怪我などの続けられない理由や事情、何かしらの現役への未練を抱えながら去っていく印象を筆者は抱いていた。今回の加藤の場合、先の道に進むという強い決意で退団に至った訳だが、そこには表向きに出来ない色々な事情もあるのかもしれない。それでも唯一確かなものとして分かったのは、加藤が現役への後悔や未練を一切持たぬまま引退していったという事だろう。寧ろ、その未練を抱えていたのは見送る側だったのかもしれない。

 引退試合で加藤を介錯した野村卓矢は「苦しいことがあるかもしれないけれど、頑張れよ!」というエールを述べる際に一瞬声を詰まらせ、直接加藤に引退を慰留したという阿部は「大好きな後輩でした」と泣きじゃくりながら想いを吐露した。そんな先輩達の熱い想いに対し、加藤のマイクは驚くほどに冷静で、本人も述べたように【達観】という言葉がピッタリであった。そんな加藤の姿を客席から見ていた筆者も「加藤を慰留するのは無理だ」と悟ったのである。こういう引退発表が出た際には、得てして所属元の金銭的事情といった待遇面の話が出てきがちなものであるが、加藤の場合はそうした事情や邪推よりも先ず、次なる夢に向かおうとする意思の強さがハッキリ出ていた。

▼大日本プロレス青木優也、加藤拓歩W店長イベント 茅場町ビヤホール

大日本プロレス青木優也、加藤拓歩W店長イベント 茅場町ビヤホール

「まだプロレスがやりたいから」

 野村や阿部が加藤に対するエールの中でこう述べていたのだが、去っていく者よりも残された者に重みを刻んでいく引退試合もそうは無いだろう。とはいえ、プロレスラーとして各地を巡業する傍ら、2022年には独学で宅地建物取引士、引退直前には日照簿記検定2級を取得していったポテンシャルの高さは今後の人生にも繋がるはずだ。一プロレスファンとしては、デビュー時期の近かった兵頭彰(2022年9月引退)とストロングBJの未来を背負って立つ姿を見られなかった事が心残りだったものの、それ以上に、加藤拓歩という男の第2の人生に対してエールを贈りたい気持ちしかないのである。

加藤拓歩5年9ヶ月プロレス人生閉幕も完全燃焼!

<メインイベント 加藤拓歩引退試合 タッグマッチ 30分1本勝負>
○野村卓矢 阿部史典
(18分46秒 両腕固め)
●加藤拓歩 鈴木敬喜

 5・4横浜武道館ビッグマッチで組まれたBJWタッグ王座戦と同一カードとなった、加藤拓歩の引退試合。デビュー戦でパートナーを務めた野村卓矢、所属外という立場ながらも加藤の引退を慰留してきた阿部史典を相手に、『シミラリティ』でタッグパートナーだった鈴木敬喜と組んで最後の試合に臨んだ。

 試合自体は、驚くほど引退試合という雰囲気が無かった。これは何も否定的な意味ではなく、加藤自身の動きだったり、鈴木敬喜との好連携だったり、タッグ王座の行方を占うような張り詰めた緊張感があったりしたことで、引退の郷愁を感じさせなかったからだ。唯一通常の試合と異なっていたのは、大日で共に過ごしてきた仲間や観客達が、「この試合を以て加藤拓歩が引退する」という事実を前にして、あらんばかりの拍手を送り、声を振り絞った点だろう。
 後輩との別れを惜しむかのように、阿部と野村の『アストロノーツ』が容赦ない攻撃を加藤に向けていく。腕を攻めながらも、加藤に声をかけながら引退試合を噛みしめた阿部。強烈な蹴りと関節技で立ちはだかった野村。この2人の存在も、引退試合を引退試合と思わせない重要な役割を担っていたのである。
 試合終盤、ダブルラリアットで阿部と野村を薙ぎ倒した加藤であったが、最後は野村に両腕を極められる形でギブアップ。2018年1月デビューから約5年9ヶ月に及ぶ加藤のプロレスキャリアに終止符が打たれた瞬間であった。

 試合後、加藤に対するエールの中に「まだ自分はプロレスを続けたいから」と思いを込めた野村や阿部の目には光るものがあった。キャリアに幕を下ろす怪我でリングを去るわけではない。ましてや、引退試合の約3ヶ月前には岡林裕二の無期限休業前ラストマッチの相手を務めたほどの選手である。そんな彼の別れを惜しむ選手達の姿を見て、見送る側の辛さがひしひしと伝わってきたのだ。最後は胴上げで見送られた加藤の表情には、未練や後悔といったものは感じられなかった。この対比も時として残酷に映ったのである。

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