[ファイトクラブ]佐藤光留自主興行エル・デスペラード戦 変態が見せた限りない夢空間

 2020年より富士通スタジアム川崎で行われている佐藤光留自主興行も、2023年で4回目を迎えた。2部制で開催された今年の目玉は、何と言っても第2部メインで組まれた『佐藤光留vs.エル・デスペラード』だろう。プロレス界の陰日向に咲く月見草が、業界の太陽とも言うべき新日本プロレス所属選手と相対するシングルマッチは、観客に夢を見せた。とはいえ、このメインの対極に位置する試合が1興行に組まれる振り幅の広さは、佐藤光留興行の特色でもある。全2部制の狂乱に満ちた大会を、業界専門誌が取材に来なかった第1部も含めて本誌では特集する。


[週刊ファイト9月7日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼佐藤光留自主興行エル・デスペラード戦 変態が見せた限りない夢空間
 photo & text by 鈴木太郎
・選手自身も楽しんだ夏の屋外大会
・メジャー・インディー超越した『佐藤光留-エル・デスペラード』夢舞台!
・”プロレス小僧”デスペラードによる枠組み超えた尊敬
・インディーから轟かすJrの脅威! 渡辺壮馬見せた新たな可能性
・”2代目阿部史典”バトルロイヤル覇者・阿部史典が2代目襲名!
・観客も理解不能な【オーバー・ザ・阿部史典】ルール
・『Evo女-有名フリーランス』圧倒的力量差でフリーランス勢軍配
・身長キャリア差度外視タッグ『火祭り』覇者松永準也JTO夕張源太下す
・長渕剛リスペクト♪JEEEP勝者CDデビュー”SUSHIを向いてあるこう”
・当たり屋4人火花散らすバチバチマッチ壮絶時間切れドロー永尾颯樹
・コスプレ、『だるまさんがころんだ』、関根シュレック秀樹! 狂乱のYMZ
・夢みがち56歳 presents『岩崎永遠-塚本竜馬』ラリアットで岩崎勝利!
・飯伏研究所・前口太尊プロレス2周年記念!和田拓也が関節技で下す
・場繋ぎ余興感満載の長時間ダークマッチ照明暗転決着”イベント終了”


■ニコプロpresents佐藤光留自主興行「変態は夢を見た」
■日時:2023年8月26日(土) 第1部:14時開場/15時開始 第2部:17時開場/18時開始
■会場:神奈川・富士通スタジアム川崎
■観衆:196cm(主催者発表)

 2020年の新型コロナウイルス禍以降、夏の風物詩として定着しつつある、富士通スタジアム川崎での佐藤光留自主興行が今年も開催された。2023年で4年連続4回目の開催。2部制で行われた今回の目玉は、何と言っても第2部メインの『佐藤光留vs.エル・デスペラード』だろう。
 DDTプロレスリング、プロレスリングFREEDOMSと、2023年は他団体へのゲスト参戦が増えているエル・デスペラードが、団体ではなく選手個人の自主興行に出場した事は驚きを以て迎えられた。今大会が、過去3度行われた川崎大会の動員を越えたとアナウンスされたのも、デスペラード参戦による所が大きいだろう。
 実際、筆者の体感では第2部開始時点で約200人近くの観客はいたように思うし、第2部だけ観戦しに来た観客の待機列も大体20~30人は並んでいた。それでも、第1部からデスペラードのファンと思われる観客は多く訪れていたし、デスペラードも他の選手に混ざる形でポートレートと私物くじを販売するなど、新日本プロレスではまず考えられない売店に多くの客が行列を成していたのである。本人も会場設営からいたり、売店の合間には第1部から試合をスタンドで観戦したりと、佐藤光留自主興行を大いに楽しむ姿が見受けられた。

 ただ、メジャー団体から選手が参戦する中でも、興行主のスタンスが変わることはなかった。デスペラードが参戦した第2部だけで見ても、【インディージュニアの祭典】とも言うべき12選手の4WAYタッグマッチに、『“2代目”阿部史典発掘バトルロイヤル』、女子プロレスタッグマッチなど、振れ幅もカラーもまるで異なる試合が詰め込まれていたし、第2部のみ取材に来た週刊プロレスが【寸評】という扱いで取り上げた第1部についても、バチバチ系の試合から長渕剛リスペクト溢れる試合まで両極端な配置であった。
 第1部の前説で佐藤光留が触れたような、【“よく分からないプロレス”】と、【でもそこにある“ちょっと他人には理解されがたい夢を見た人間”の生き様】が、全2部を通じて反映されていたのである。第1部から見ていると、興行終了後の達成感のようなものが選手・観客に共有されていたし、踏み込んだ言い方をすれば、【同士】のような結束感さえ感じられた。

「エル・デスペラードと試合やるなんて、そんなことあるわけねえじゃねぇかって言われたよ! でもいま俺は夢が叶っているど真ん中にいる! それを見て拍手してる奴、次はお前らの夢の番だからな! カネ払った、面白かった、それで終わりなんて佐藤光留興行は生易しくねえからな! お前らの夢が叶うまで絶対に俺を追いかけろ! ……チケット買って」

 第2部のメインイベント終了後に佐藤光留が握ったマイクからは、今大会名でもある『変態は夢を見た』の真髄が表現されていた。

メジャー・インディー超越した『佐藤光留-エル・デスペラード』夢舞台!

<【第2部】メインイベント 新太平洋運輸株式会社 presents シングルマッチ時間無制限1本勝負>
●佐藤光留(パンクラスMISSION)
(26分50秒 ピンチェ・ロコ⇒体固め)
○エル・デスペラード(新日本プロレス)

 佐藤が右腕、デスペラードが足をそれぞれ攻めていく流れが基本軸となっていたこともあり、ギブアップで決着がつくよう意識させる試合展開に。しかし、場外乱闘で会場後方や2階スタンドに上がり始めた中盤戦以降は、ギブアップ決着の可能性は残しつつも一進一退の攻防で纏めてきた印象も受けた。
 筆者が驚かされたのは、デスペラードの持つ平均値の高さであった。佐藤がサブミッションだけでなく、蹴りといった打撃を併せ持つのと同様に、デスペラードも強烈なチョップを挿入することで、ジャベだけに留まらぬ別方向の攻めも意識付けてきたのである。

 スタンスは異なるが、デスペラードの参戦先に対する隠しきれないリスペクトの数々は、新日の大先輩にあたる小島聡を彷彿とさせるものがあった。
 そして何よりも、メジャーやインディーといった枠組みやしがらみを乗り越え、率先して売店にも立ち、自分の出ない試合も積極的に観戦していたデスペラードこそが、今大会を一番楽しんでいたのではないだろうか? 
 IWGPJr.ヘビー級王座戴冠という輝かしい実績がありながら、”プロレス小僧”とも言うべき相手への尊敬の深さや探究心を以て、リングへと上がる姿勢と存在感はメジャーやインディーという枠組みを超越していたのである。

インディーから轟かすJrの脅威! 渡辺壮馬見せた新たな可能性

<【第2部】セミファイナル A.A.forever presents ジュニア12人4wayタッグマッチ30分1本勝負>
○渡辺壮馬(GLEAT) 井上凌(全日本プロレス) 橋之介(A-TEAM)
(12分50秒 ファイヤーバード・スプラッシュ⇒片エビ固め)
ライジングHAYATO(全日本プロレス) 中野貴人(BASARA) ●児玉裕輔(フリー)

【そのほかのチーム】
木髙イサミ(BASARA)&香取貴大(イーグルプロレス)&エーグル・ブラン(フランス)
田村男児(全日本プロレス)&十文字アキラ(JTO)&若松大樹(2AW)

 当初は12選手出場という事や、団体も違えば常にタッグを組んでいる者同士ではないという関係性から、試合がゴチャゴチャしてしまうのではないかという懸念はあったものの、試合が始まればそんな不安は杞憂に変わったのである。
 普段絡みがありそうでない選手同士が、目まぐるしく入れ替わっていく終盤の攻防と空中飛行の数々は、観客の目を奪い、圧倒していった。

 今年3月に行われた『ジュニア夢の祭典』は、大会後に各団体のJr.ヘビー級選手達が垣根を越える契機となったが、今回のタッグマッチもそのような可能性が秘められていた。1部・2部通じて1試合だけ組まれたJr.ヘビー級のカードは、2023年下半期以降のインディーマット界に新たなる邂逅を予感させたのである。

記事の全文を表示するにはファイトクラブ会員登録が必要です。
会費は月払999円、年払だと2ヶ月分お得な10,000円です。
すでに会員の方はログインして続きをご覧ください。

ログイン