[ファイトクラブ]ノア武藤の王者ツアーは叶わず 札止めN-1開幕を点から線にできるか

[週刊ファイト9月23日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼ノア武藤の王者ツアーは叶わず 札止めN-1開幕を点から線にできるか
 photo & text by TERUZ ノアN-1開幕戦9・12後楽園
・藤田和之のアッパレな着地 マサ北宮「後見人」続きはどうなった
・拳王「中高の教員免許持ってる」 カシン「俺も持ってんだ」謎問答
・勝ちを取りにいくリーグ戦見本 昨年覇者の中嶋勝彦は黒星発進
・緊張感と時間稼ぎの間に武藤敬司 杉浦貴「負けに等しい」ドロー
・Yahoo!ニュースをノアで埋める 新日にできない24時規制撤廃
・北側記者席まで潰して対応 ABEMA生中継があっても観衆札止め
・関係者&ファン困惑 丸藤-杉浦GHC2大王者はどこから来たのか


■ ノア N-1 VICTORY 2021 ~NOAH NUMBER ONE PRO-WRESTLING LEAGUE~
日時:9月12日(日)11:30
会場:東京・後楽園ホール 観衆701人(札止め=主催者発表)

 「後楽園3大会+TVマッチ3大会」の厳選日程によるノアの最強決定戦『N-1 VICTORY 2021 ~NOAH NUMBER ONE PRO-WRESTLING LEAGUE~』が開幕した。今年になってノアに加入した武藤敬司が杉浦貴と注目の一騎打ち。会場は札止め、ABEMA中継も行われることで、多くのファンがリアルタイムで楽しんだ。武藤といえば6月のサイバーファイトでGHC王座を手放したが、関係者・ファンが想定した“王者・武藤による全国ツアー”はなぜ実現しなかったのか。周辺情報を含めてノアN-1開幕をレポートする。

藤田和之のアッパレな着地 マサ北宮「後見人」続きはどうなった

<第2試合/「N-1 VICTORY 2021」Dブロック公式戦>
〇藤田和之
 9分29秒 顔面蹴り⇒体固め
●マサ北宮

 マサ北宮が足攻めのバリエーションで藤田和之をとことん追い込んだ。試合でウケていたのは、藤田の痛がりかた。なんども藤田から「痛いッ」「あ、イタッ」と声が出て、そのたびに観客から笑いが起きる。余計な強がりなくノアに順応しているということなのだが、その素直な藤田を受け入れている会場の様子からノアへの“アッパレな着地”を感じた。「藤田にプロレスなんてできないだろ」というような否定的な見方を、継続参戦によって克服したのだ。

 相手のマサ北宮に関して言えば、4月29日に武藤敬司が当時保持のGHCヘビー王座に挑戦した際のやりとりが思い起こされる。北宮を下した武藤が試合後に「マサ斎藤の名前を受け継いでいいよ。俺が後見人になってやる。本当に強くなった」と太鼓判を押した。この“続き”はないのだろうか。鉄は熱いうちに打てというが、武藤の参戦がもっと立体的に活用されるべきではなかろうか。

拳王「中高の教員免許持ってる」 カシン「俺も持ってんだ」謎問答

<第3試合/「N-1 VICTORY 2021」Bブロック公式戦>
〇ケンドー・カシン
 12分46秒 首固め
●拳王

 拳王が「中高の教員免許持ってる」とすれば、ケンドー・カシンは「俺も持ってんだ」と、レベルが高いのか低いのかわからない謎問答だ。以前にGHCナショナル戦ではカシンに勝利したものの、カシンの“靴脱ぎ”でアンクル・ホールドを決めきれず混乱した拳王。この日もカシンが“靴脱ぎ”を披露したが、拳王は受け流す。

 ところが、カシンが秘策2枚重ねによる“マスク脱ぎ”でスリーパーを逃れると、拳王はあっけに取られて丸め込みフォールを許すしかなかった。バックステージではカシン「ちゃんと資格取れ。介護の初任者研修」拳王「中高の教員免許持ってるから、そんな資格すぐ取れる」カシン「バカヤロー、俺も持ってんだ」と、問答が延々と続いていた。

勝ちを取りにいくリーグ戦見本 昨年覇者の中嶋勝彦は黒星発進

<第5試合/「N-1 VICTORY 2021」Cブロック公式戦>
〇田中将斗
 14分08秒 スライディングD⇒エビ固め
●中嶋勝彦

 中嶋勝彦が左ミドルなら、田中将斗は右エルボーだ。打撃が交わっての乾いた音の連続に、観客席から何度もウワッという声が漏れる。渾身のラリーがスピーディーに繰り広げられ、勝ちを取りにいく姿勢あってこそのリーグ戦の見本のような試合にファンが熱狂した。この日のベストバウト。昨年覇者の中嶋は敗れてもなお優勝戦線に残ってしかるべき試合グレードを残してみせた。コアなノアファンからすれば、清宮海斗、拳王そして中嶋といった顔ぶれの浮上なくしてはノアの次のステージはない。

緊張感と時間稼ぎの間に武藤敬司 杉浦貴「負けに等しい」ドロー

<第6試合/「N-1 VICTORY 2021」Aブロック公式戦>
△杉浦貴
 30分時間切れ引き分け
△武藤敬司

 これは緊張感なのか、それとも時間稼ぎなのか。武藤敬司の闘いに賛否両論だ。かねてから武藤を「新弟子」呼ばわりしていた杉浦貴は短時間決着を狙い、いきなり雪崩式ブレーンバスターからの逆エビ固めで先制する。ところが、しのいだ武藤は序盤は腕攻め、中盤は足攻め。アッという間に時間が過ぎ去る。

 武藤のプロレス人生において「じっくりレスリング」はよく見られる展開。SNSでは攻防に見入ったファンの反応が多かったが、リスクを冒さない姿勢には疑問符がついた。武藤の足4の字固めが長時間決まり、杉浦がフロントネックロックをガッチリ仕掛けたときには残り時間にゆとりなし。予選スラムで勝負に出た杉浦だったが、1発目を返され、2発目を狙ったところで30分フルタイムのゴングが鳴った。バックステージで杉浦は「前半、中盤と腕攻めと足攻めで時間を稼がれた。俺が20分過ぎから攻撃したけど、時間が足りないな。ちょっと負けに等しい」と悔しがった。

Yahoo!ニュースをノアで埋める 新日にできない24時規制撤廃

 特に団体からアナウンスがあったわけではないが、ノアが公式サイトとしての役割を委託している『プロレス&格闘技DX』との“関係”に変更があった。これまでは大会当日のリアルタイム報道が許されていたのはプロ格のみ。他社は24時を待っての報道との規制を強いられていた。つまりは、ニュース解禁時間で優位性を持たせて公式会員増を後押ししていたわけである。

 ところがこれでは、ノアの知名度を本来上げるはずのYahoo!ニュースでの扱いが24時以降にならざるを得ない。ネット媒体を手がけている側からの実感としては22時、23時といった時間を過ぎるとアクセスは極端に落ちるものである。せっかくの取材や報道が台無し状態だ。ただでさえコロナ禍でリングサイド撮影も制限されている。

 取材する側もされる側も何とも複雑な心境だったわけだが、どういう交渉が行われたのか不明ながら、解禁時間の制限が撤廃された。さっそく9月12日には多くのメディアがリアルタイムでノアの各試合を報じていた。

 これで24時規制が残ったのは、新日本プロレス(公式以外は規制)・全日本プロレス(プロ格以外は規制)の2つとなった。新日本と全日本が前時代的かつ短期的収益重視の仕組みにいつまでこだわるのか。関係者&ファンはこういったところで、団体の姿勢を見ているのも事実だ。

北側記者席まで潰して対応 ABEMA生中継があっても観衆札止め

 とにかく9月12日の観客はしっかり入った。記者とカメラマンは通例、北側席に記者、バルコニーにカメラマンが配置される。これが“完売ムード”の際には、記者席スペースまでが観客に解放される。今大会は北側席までが解放されたパターンとなった。ABEMA無料中継がありながら札止めは、団体にとっての追い風そのものである。

 N-1は「後楽園3大会+TVマッチ3大会」の厳選日程による開催だ。8月13日には都内感染者数が5773人という過去最多をマーク。同時点からは、いかなる感染者数拡大やイベント規制が9月・10月にあるか戦々恐々だった。TVマッチ多用の手堅い日程を組んだことは想像に難くない。結果的に初期G1クライマックスを彷彿させる凝縮シリーズのムードが漂っている。追い風にドライブをかけるシリーズとしてノアは勝負をかけているところだろう。

関係者&ファン困惑 丸藤-杉浦GHC2大王者はどこから来たのか

 記者としては個人的に、ここのところ関係者と意見交換する機会が特に多かった。コロナ禍における団体の苦悩は相当なものだが、その中で様々な施策が繰り広げられている。その奮闘をファイトとしても後押ししていきたいところだ。

 一方で、「これは失策ではないか」という力説がある。ノアに関して言えば、「ブッカー(NOSAWA論外と目される)はなぜ、武藤から丸藤へというGHCヘビー王者交代を組んだのか」と疑問視する声は複数だった。「何かオチがあるのでは?」との受け止めで、6・6サイバーファイトフェス(武藤陥落)から即時には声を荒げなかった関係者・ファンも多かっただろう。

 ところがオチらしいオチがない。サイバーファイトフェス直後に想定された武藤の仙台・広島ツアーも“なくなった”だけではないのか。本来は武藤の王者ロードが1年ほど続いて、よりおいしくなった王者に清宮や拳王が勝つべき。おそらく武藤も「清宮じゃなくていいの?」と正したに違いないし、武藤はそういう臭覚の持ち主だ。短期で王者を明け渡すにしても、相手はせめて清宮・拳王であるべき。丸藤正道がGHCヘビー、杉浦がGHCナショナルという構図は、ブッカーによる丸藤・杉浦(ノア幹部)への気遣いに他ならない。

 これでは“沈みかけたノア”のトップに逆戻りではないか。一時期のノアは、清宮と拳王をプッシュして、新時代をつくりあげにいく姿勢が満々だった。プロレスにとってブランディングは大事過ぎるのに、ここにきて“積み上げ”が無になったようにも思える。関係者&ファンには困惑しているのだ。その困惑を一掃する起点や大どんでん返しがN-1に刻まれるのだろうか。そこがN-1最大の見どころと言っていいだろう。