人はなぜ戦うのか?映画『迷子になった拳』必見推薦作!格闘技もラウェイも詳しくなくても感動出来るドキュメンタリー

週刊ファイト12月17日号]収録

▼人はなぜ戦うのか?映画『迷子になった拳』必見推薦作         
 格闘技もラウェイも詳しくなくても感動出来るドキュメンタリー
 by タダシ☆タナカ

 制作されたことが奇跡のようでもある格闘技のドキュメンタリー映画である。なにしろ、題材がラウェイなのだ。冒頭にちゃんと、ラウェイとはなんぞやの説明はされるんだが、キックボクシングよりさらにマイナーなジャンルというか、カテゴリーになる競技だ。しかも、人間ドキュメントとしては二人の選手、トップ画像にもある金子大輝(カネコダイキ=上段)、渡慶次幸平(トケシコウヘイ=下段)を軸にしているから、格闘技ファンだとしても、あまり馴染みがないとなろう。
 それが、格闘技もラウェイも詳しくなくても感動出来るドキュメンタリー作品に仕上がっているのだからやはり奇跡である。なにしろ撮影開始は2016年から。恐らくは金子大輝を主人公にする企画として現地ミャンマーでのトレーニング風景などをカメラが追うところから。格闘技ファンには顔と名前が一致する、”野良犬”こと小林聡が「キックでなく、ラウェイをやる選手となると・・・」と、結構残酷だが冷徹に情勢を語っている場面もあった。

 ところがノンフィクションである以上、結末はどんどん変わっていくというか、そもそも予想不可能なのである。その小林をGMとするキックボクシングのプロモーションZONEが活動停止になっていき、替わって日本でラウェイの試合を組みだしたのはILFJとなり、そこでラウェイ専任だと口にする渡慶次幸平が後半の軸になっていく。実際、金子の話がひと段落のところでようやく映画のタイトルである『迷子になった拳』のテロップが出て、なるほどここまでが第一部?の終了なのかと。


ZONE タグ https://miruhon.net/40241


ILFJ タグ https://miruhon.net/tag/ilfj

 もちろん金子は後半にも出てくる。なにより病院送りにされた試合で、お母さんに酷く怒られる場面がもの凄い迫力で、格闘技の舞台裏をリアルに覗けることもまたこの作品の大きな魅力になっている。また、奥さんがミャンマー人で、長年ラウェイの普及と浸透に尽力してきた高森拓也さんのことも作品に深みをもたらしていた。

写真左端が高森拓也氏

 高森さんはラウェイを追いかけている本誌・週刊ファイトのような専門媒体には頻繁に登場してきたコーディネーターであったものの、ZONEのILFJに対する「まがいもの」中傷事件から、「もうラウェイには関わらない」と言わせてしまう経緯にも踏み込まれていた。


12月4日の先行上映会より左から浜本雄大、ロクク・ダリ、金子大輝、渡慶次幸平の主役4選手


本誌・紅闘志也、岡崎光洋プロデューサー、今田哲史監督、金子大輝

 金子大輝がミャンマーのガールフレンドと、恐らくは痴話喧嘩にせよ警察沙汰になったエピソードもあった。詳しいネタばれは止めておくが、時間軸としても2016年から撮影開始だし、よくもまぁこれだけ膨大な素材をうまく編集してまとめたなぁと。編集の腕前が素晴らしいから、単純にラウェイは詳しくなかったとしても流れがわかりやすいのだ。

 選手としては、金子、渡慶次のみならず、コンゴ出身でパンクラス、巌流島、RIZINにも参戦したロクク・ダリの家族含めた日常生活が興味深い。浜本“キャット”雄大は、ラウェイ王者という肩書で那須川天心とRIZINキックルールで闘い、地上波でも放送されたから格闘技ファンなら見たことあるだろう。また、金子の母親や高森さん他、選手だけでなく現地ミャンマーのジム会長らを含む関係者諸氏の描き方が琴線に触れる。いろいろ考えさせられる内容でもある。

 格闘技ファンなら必見作であるばかりか、ラウェイにも格闘技にも詳しくない方にも優れたドキュメンタリー作品として推薦できる点がミソになろう。キャッチコピーは「人はなぜ戦うのか?」であるが、それは同時に「なぜファンは格闘技を見るのか」でもあるのだ。そのパラドックスにピンときたら、この映画は必見作。2020年12月25日(金)~12月31日(木)、UPLINK渋谷に集えと保証しておく。

 なお、あちこちにチョコっと映るだけなのだが、現地ラウェイ戦生還者の一人でもある本誌・紅闘志也はもとより、登場人物の多さでも格闘技マニアならビックリされること請け合いである。あの人も、この人もちらっとだが随所に出てくるのだ。

映画『迷子になった拳』公式twitterアカウント


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