[ファイトクラブ]5004日後に最高で最低な闘いを見せたプロレスラー

[週刊ファイト3月26日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼5004日後に最高で最低な闘いを見せたプロレスラー
 Photo & Text by こもとめいこ♂

・稼ぐと儲けるの似て非なるニュアンス
・スーパーヒール中嶋勝彦の憂鬱
・カズ・ハヤシvs.中嶋勝彦、14年後の春
・今日の櫻田愛実リングアナ劇場

 WRESTLE-1も残す所3・25新木場、4・1後楽園と、あと2大会となった。

 新木場大会前日には、Enfants Terribles で活躍していた新井健一郎をゲストに招いてのヤマモ酒が行われるので、ラス前の前夜祭として参加して頂ければと思う。

3・24ファイトカフェトーク「ヤマモ酒」が復活!ゲストは新井健一郎

 そんな2020年の3月末。
 Twitterで100日間連載され、大団円を迎えたコンテンツ『100日後に死ぬワニ』が話題となっている。
 内容自体はここであらためて説明しないが、今や元のコンテンツよりも『〇〇日後に〇〇』という2次創作、大喜利の方が面白くなってしまっているし、コンテンツのマネタイズにおける倫理観への言及がメディアの中心となっている。

 作者によると元は知人の死をキッカケに始めた事らしく、そこに目を付けた電通が初期の段階で乗っかった事で、個人的な追悼の創作表現がコンテンツ化したという経緯の様である。
 そもそもリアルタイムで「死」に近づいていく命を創作のモチーフにするという時点でかなり倫理的に危ういのだが、作者は、過去に何かの展示会に絵を出品した時に思った様な評価が得られず、大型の絵を寂しそうに持ち帰ったという、創作に関する純粋さを表すエピソードも訊いたので、「ピュアな人」という事で一旦は置いておく。
 
 ただ、見る側は、100日目まで個人的な追悼の創作表現だと思って見ていたのに、直前の書籍化に続き、死んだ途端に各種グッズがリリース、映画化の情報が解禁され、それが高橋まつりさんという女性を過労死に追い込んだ電通による案件となれば、批判されないと思うのはむしろオカシイのではないかと思う。

 創作者に霞を食べろと言うのか、コンテンツ化の何が悪い、むしろ清々しい、「嫌儲主義」か、という擁護論もあるが、法に触れなければ何をしても許容すべきだというのも無理な話である。
 素朴な(ヘタウマな)絵柄と木訥とした世界感は、そういった物と逆の感性の元製作されている様に振る舞う事で多数の支持を得ていたのだから。
 違うと言うなら、作者に箝口令を布かず、
「グッズ化進行中! 」「書籍化決定しました! 」
とでも呟かせれば良かったのである。
 100日目を情報解禁日に設定した(ゲームセンターに納品された「開封日3月21日」と書いてあるプライズ景品の箱は象徴的)のは、
「ビジネス臭は客が逃げる」
と判断したからであろう(実際そうなった。あるいは深読みすれば、それで批判を受ける事さえも計算ずくで、「悪口だろうと話題になる事、数字が総て」という電通的発想なのかもしれず、実際書籍やグッズの売れ行きは好調と聞く)

「嫌儲」というのは、みんなで無料で情報を共有しよう、という匿名掲示板の発想から派生した言葉で、元は書かれた情報をコンテンツ化してマネタイズしようとする動きへの牽制だった様に思う。その後、まとめサイトが無断でコピペしたり改竄したりした書き込みをまとめたサーバーに、広告を貼る事で莫大な利益を得る様になり、その姿勢へのハッキリとした批判を、マネタイズする側が「嫌儲」というレッテルを貼って対抗した事で、単にマネタイズを嫌悪する考えだと矮小化されて使われる様になっている。
 そこから派生して、やりがい搾取の一環としてWebでイラストや漫画を発表しているクリエイターにプロアマ問わず無償で描かせようとする輩がいたり、お金が無く、著作物の権利に無頓着な中高生が悪気無しに
「ネットに載せる絵を描いてお金取るのはヒドい」
と言ったりする例もある。

「お金儲けは悪い事ですか」
とは、村上ファンドの村上世彰氏が世に問うた言葉だが、法的にも倫理的にも、良い場合も悪い場合もある、が解答であろう。
 世間的には、働いて「稼ぐ」のは良いが、楽して「儲ける」のは良くない、という素朴な空気、ふわっとした民意あるのは間違いない。これは何も新しい概念では無く、「悪銭身につかず」という格言もあるし、昔話では働き者には大抵幸せが待っていて、落語でも『芝浜』などアブク銭を持つ事を戒める噺は多い。さらに遡ればイスラム教では利息をとる事を禁じているし、「働かざる者、食うべからず」と教えるキリスト教も蓄財を戒め、施しを是としている。  
 もっともこういった勤労推奨の道徳は、王や貴族、地主といった為政者や資本家にとって都合の良い政策であって、レーニンは「働かざる者、食うべからず」は資本家にこそ当てはまる言葉だと喝破した。

 翻ってプロレス界で言うと、蓄財した話というのはあまり聞かない。
 日本のプロレスの祖である力道山も、プロレス以外の事業は芳しくなく、百田家には死後、相続税を払ったらほとんど財産は残らなかったと言うし、アントン・ハイセルのアントニオ猪木は言うまでもなく、全日本女子プロレスもバブル崩壊で負った負債で結局破滅の道を歩んだ。
 プロレス村の外からやって来たメガネスーパーのSWSも膨大な資金を投入して撤退、そんな中、ブシロードは希有な例だと言えるが、3・31両国も中止を余儀なくされて、にわかに雲行きが怪しくなってきた。
 団体やプロレスラーの多くは、好きじゃないとやっていけないカツカツの状況、赤貧洗うが如くというのが実情である。 

 ずっと赤字体質だった事が公のものとなったWRESTLE-1も、選手もスタッフも決してダメな仕事をしてきたわけではない。むしろ怪我の多い、激しい試合を行ってきたし、広報活動も非常に熱心。
 逆にいうと、みんな真面目過ぎたと言っていいのかもしれない。武藤敬司のアッケラカンとした性格は、WRESTLE-1に受け継がれなかった様に思う。

 今から14年前の2006年7月3日、東京・大田区総合体育館。ジュニアヘビー級リーグ戦 優勝決定戦で、カズ・ハヤシと中嶋勝彦が激突した。
 
<ジュニアヘビー級リーグ戦 優勝決定戦 時間無制限1本勝負>
[Aブロック1位]
〇カズ・ハヤシ(全日本プロレス)
 20分58秒 ファイナル・カット⇒片エビ固め
●中嶋勝彦(フリー)
[Bブロック1位]
※カズ・ハヤシが初優勝

 筆者が中嶋勝彦と聞いて、思い浮かべるのは、今は一児のママとなったかさいあみさん。
「男色ディーノ選手とかとイヤイヤやってるのがスゴい大好き」
で、健介オフィス自主興行まで観に行っていたというから筋金入りだが、
「大人になった」
と、醒めてしまったと語っていた。

[ファイトクラブ]初代裕二郎ガール・かさいあみ激アツプロレス愛! インタビュー

 「大人になった」中嶋勝彦は、WRESTLE-1最後のビッグマッチ、3・15大田区でも健在だった。
 

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