話題のターザン山本!『毒を食らわば皿までも』美城丈二・書評の頁“読み手研鑽”

 
 Act・3『ターザン山本!&一揆塾 毒を食らわば皿までも①底無し沼論~井上義啓氏と週刊ファイト』
 
 “毒を食らわば皿までも”この場合、一端、プロレス界のとある内面を見知った限りはとことんまで味わいつくしてしまえ、という意味と従えたい。ターザン山本!氏がそう告げれば、その信憑性は俄かに真実を帯びてくるのだ。
 とにもかくにも『週刊ファイト』紙記者から『週刊プロレス』編集長として登りつめ、退職。放浪生活の狭間であらゆる格闘技マスコミにその顔を覗かせ、罵詈雑言、喧々諤々、批難・賞賛・嫌悪・好感の“その時気分”(失礼!!)の巧みな弁舌をもって大いにその存在感を格闘マスコミ間で知らしめた、プロレスマスコミ界で最も著名な“異能”。
 その辺のプロレスラーもどきよりプロレスラーらしい“反則負けすれすれ”のターザン語録はしかし時にえてして真理を貫いており、始末に置けない。「なるほど」と頷かせて次の週にはあっという間も無く落とされる、『週刊プロレス』編集長時代には往々にしてそういう思想的な観念を文章にものされ、感化を受けた識者も数知れない。
 言わば良く捉えるならば「落としどころをわきまえた」業界人と解釈すべきおひとだろう。
 
 そんなターザン山本!氏が唯一の師と仰がれるのが、かの週刊ファイト「井上義啓元編集長」である。井上氏が他界なされ、ターザン山本!氏は堰を切るが如し、愛惜の情を持って、井上氏の「活字プロレスの祖」としての内情を有為の場所で語られ始めた。
 そんな師に対する愛惜の情が累々と綴られてある、これこそは“集大成”とも思しき書が本書、『毒を食らわば皿までも』論と言っても過言では無いかも知れない。
 「マスコミの主流は東京に集中している。その点で関西に本拠地を置くことはこの情報化社会においては大きなハンディである。どうしてもニュ―スが遅れる。ニュースで勝てないとわかった時、井上編集長は二次報道に賭けようとしたのだ。(中略)本当はこうなんだ。真相はこうだとそれを『週刊ファイト』の売りものにしていけばマスコミとして生き残っていけるはずである」
 『週刊ファイト』の成り立ちに始まり、“井上編集長”の虚と実をマスコミ界における『週刊ファイト』の立ち位置を含めた視点から論述なされており、流暢な文筆と相まって非常に読み解きやすい構成はやはり秀逸だと感じる。
 「酒は飲まない。でもヘビースモーカー。女性には興味がない。生涯独身主義。では何があるのかといったら一日24時間ずっとプロレスのことを考え続けていた。(中略)いわゆる井上編集長は“考えるプロレス”をやり続けていたのだ。四六時中、プロレスのことをあれこれ考えているので、どんな時でも原稿はすぐに書けた。早いなんてものではない。井上編集長がハイスピードで原稿を書きあげることができたのは、原稿を書いていない時、プロレスのことをずっと考えていたからだ」
 24時間考えるプロレスこそ“底が丸見えの底無し沼”、活字プロレスの下地を作り上げたのだと解すれば、これはもう誰も敵わない下地、ベースなのかも知れず、ターザン山本!氏の明敏なる推理力がそのような“元祖・プロレス活字界の怪人、井上編集長”の内幕を紐解いてみせてくれてもいる。
 プロレスにおける、これはまさしく世間との“隔絶間”に位置する“八百長論”にもマスコミ関係者としては果敢に挑まれた記述もあって、氏の文章には“不文律”なるものは介在していないのかも知れない。
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表紙イラスト:いしかわじゅん(特別提供)
 ある識者の方がこの書はまさしく“名著”だと記述なされておられたが、今回、ダウンロードさせてもらい読み綴ったところ、誠に僭越なる物言いではあろうが、読み応え十分、ターザン語録はやはりターザン語録として健在であった!!との認識を深める思いを改めて強く抱いた。
 「(中略)そう考えると、井上編集長が、自分が『週刊ファイト』でやっていることを“井上プロレス”と言っていた意味がここにきてやっと理解できた。そうだ、そうだったのだ。井上プロレスというのは井上編集長がプロレス界の錬金術師だったことの称号だったのだ」
 あまりの“一刀両断”解釈付けによって意味無く嫌う方々も数多い氏のひととなりではあろうが、もしやこの書は氏のそんな“非難ぶり”を覆すや知れぬ書となるかも知れず、まさしく“謎解き”に満ち溢れており、読まず嫌いな方こそ読了願いたい、“好書”である!とここにしかと記述させていただこうかと思う。
 “読み手研鑽”読まずに嫌うはどの文筆ジャンルにおいてもただそれだけで「悪」である。
 「“良識”は読了してのち初めてその見識が正される」
 かの柳田國男氏の一言を末筆に添えて、氏に対する“賛辞”として、我が拙文を閉じたいと思う。
 ⇒『ターザン山本!&一揆塾 毒を食らわば皿までも①底無し沼論~井上義啓氏と週刊ファイト』
【筆者:美城丈二・プロレス格闘技関連コラム掲載サイト】
 ⇒『Soul storm *a martial art side』
ミルホンネット刊・美城丈二著作