[週刊ファイト9月3日期間] [ファイトクラブ]公開中
▼日本全国プロレス民族大移動、宿命とはいえレスラーはつらいよ……
by 安威川敏樹
・『死のロード』はもはや死語!? こんなに違う昔と今の遠征事情
・ビジター・ゲームは案外ラク!? ホーム・チームの方が苦しくなる不思議
・セ・リーグがパ・リーグに勝てないのは単なる実力差だけではない
・プロ野球選手よりもプロレスラーの遠征の方が過酷な理由
・今ならコンプライアンス違反? プロレス黄金時代の殺人スケジュール
・天龍革命の前に立ちはだかった意外な障壁
今年も夏の甲子園は大盛況のうちに閉幕した。優勝した智辯和歌山や準優勝の健大高崎、ベスト8に進出して被災地の人々を元気づけた熊本県代表の有明、プロ注目の横浜の織田翔希投手などが、大会を大いに盛り上げたのである。
そんな中、高校野球の影響をモロに受ける男たちがいた。阪神甲子園球場を本拠地とする阪神タイガースである。高校野球の季節になると阪神の選手たちは甲子園から追い出され、『死のロード』と呼ばれる全国放浪の旅を余儀なくされるのだ。
プロ・スポーツ選手にとって、遠征は宿命である。試合で体力を消耗するのは当然だが、単なる移動でも疲労してしまうのだ。
もちろん、プロレスラーも例外ではない。

『死のロード』はもはや死語!? こんなに違う昔と今の遠征事情
かつて、阪神が1964年のリーグ優勝を最後に、1984年までの20年間も優勝できなかったことについて、阪神の元投手である江本孟紀は『死のロード』に原因があった、と指摘している。
8月という真夏で、またシーズンも後半戦に突入するという最も疲労がたまる時期に、1ヵ月近くも全国を彷徨い続けるのはハンパな苦しさではないのだそうだ。
ただでさえクソ暑いのに、移動疲れで試合どころではなくなってしまう。新幹線が開通して移動時間は短縮されたとはいえ、ずっと本拠地に帰れない厳しさは想像できない。
また、当時はあまりいいホテルには泊まれなかった。遠征先によっては空調設備が整っていない旅館の場合もあり、食事もあまり良くない。ゴキブリが出るような旅館を常宿にしていたこともあったという。それに誰もが経験があると思うが、たとえ楽しい旅行だったとしても、家に帰ればホッと一息つくはずだ。
自宅なら妻による手料理を味わえるし、健康管理も行き届く。寮住まいの選手にとっても、やはり慣れた自分の部屋がいい。
もし『死のロード』がなければ、阪神は優勝空白期間の20年間に2,3回は優勝していたはずだと江本は語っていた。
それでは、現在はどうか。結論から言うと『死のロード』など、もはや死語と言っていい。そうなった背景には、1997年にオープンした大阪ドーム(京セラドーム大阪)の存在がある。
近鉄バファローズの本拠地として開場し、合併した現在はオリックス・バファローズのフランチャイズとなっている京セラドームだが、高校野球期間中は阪神が本拠地として借りるのだ。
今年の日程では、阪神は7月31日からロードに旅立ったが、1週間後の8月7日には京セラドームで試合している。京セラドームだと、阪神の選手たちは自宅あるいは選手寮である虎風荘から通うことができるので、甲子園での試合と何ら変わりはない。
遠征に出ているのはたった6日間なのだから、シーズン中では日常茶飯事だ。こんなもの『死のロード』でも何でもない。さらに、今ロード中には京セラドームでの3連戦が2回もあった。
しかも、甲子園はいくらナイト・ゲームでも真夏は暑いオープン・エアの球場。それに対し京セラドームは屋根付きなので、空調が効いて涼しい。京セラドームの方が甲子園より全然ラクなため、今の阪神の選手にとっては『死のロード』大歓迎というのが本音だろう。
暗黒時代だった1990年代から一転して2000年代以降、阪神は何度も優勝し、また優勝できなくてもAクラスの常連となっている。もちろん、それは阪神球団の企業努力の賜物だが、『死のロード』を苦にしなくなったことも影響しているのかも知れない。
また、現在では阪神だけではなくプロ野球(NPB)の各球団はかつてと違い、一流ホテルに泊まるようになっている。さらに食事も豪華で、管理栄養士の監修のもとでメニューが決められているため、ビジター・チームであってもベスト・コンディションで試合に臨めるのだ。
▼オリックスの本拠地ながら、高校野球期間中は阪神が借りることがある京セラドーム大阪

ビジター・ゲームは案外ラク!? ホーム・チームの方が苦しくなる不思議
スポーツにホーム・アドバンテージは付き物。本拠地なら勝手知ったる地の利を活かせるし、地元ファンからの大声援が後押ししてくれる。そして、何よりも移動の煩わしさがなく、自宅から通えるのが大きい。
ところが、プロ野球ではそれが必ずしも当てはまらない面があるのだ。要するに、ビジター・チームの方が有利に働く場合もある。
先週の『大谷バス』の記事でも説明した通り、プロ野球では試合開始の4時間前にホーム・チームの打撃練習が始まり、2時間前からビジター・チームが打撃練習を開始。これはNPBでもメジャー・リーグ(MLB)でも変わらず、普通は練習開始の約30分前には球場入りする。
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つまり試合開始が18時だとすると、ホーム・チームの選手は遅くとも13時半には球場入りするわけだ。早めにアップしたい場合は、12時頃には球場入りする選手もいる。
ホーム・チームは16時に打撃練習が終わり、ビジター・チームにグラウンドを明け渡す。一旦シャワーを浴びた後はクラブ・ハウスで軽食。17時頃からミーティングが始まり、17時半頃にはグラウンドに再び出てシート・ノックを受ける。そして18時に試合開始だ。
だいたい21時頃に試合が終わり、そこからまた練習する選手がほとんど。プロ野球選手というと、試合後には街に繰り出してハシゴ酒というイメージがあるが、ホーム・ゲームの場合はそんなことはまずない。マイカーで通う選手が多いし、そもそも今の選手は自己管理が徹底している。
練習が終わり、風呂に入って帰宅すると既に0時過ぎ。そこから遅い夕食を摂って、寝るのは深夜2時過ぎになる。そして翌日はまた13時半頃には球場入りとなるわけだ。
これはナイト・ゲームが続いた場合のスケジュールだからまだいいが、ナイト・ゲームの翌日がデー・ゲームだったらどうなる?
14時に試合開始だとすると、ホーム・チームの打撃練習開始は朝10時。選手によっては郊外に家を建てている場合も多いので、マイカーで1時間以上かかることはザラ。渋滞も見越す必要があるため、球場まで2時間ぐらいは見なければならない場合もあるだろう。
つまり、深夜2時に寝て朝7時半には自宅を出発しなければならないのだから、せいぜい4時間ぐらいしか眠ることはできない。一般サラリーマンならそれでもいいが、体が資本のプロ野球選手にとって、体を充分に休ませることができないのはかなり厳しいのである。
ところがビジター・チームの場合は、前述のように練習開始はホーム・チームよりも2時間も遅いのだから、球場入りは11時半頃になるわけで、ホーム・チームに比べると遥かにラクだ。
しかも、ホテルは球場近くにあり、チーム全員で短時間のバス移動なのだから気楽である。ホームの選手が朝6~7時には起床しなければならないところ、ビジターの選手は一流ホテルで9時頃までグッスリ寝て、ホテル内にあるトレーニング施設で汗を流し、シャワーを浴びて豪華な朝食。ミーティングを済ませると11時半チョイ前にホテルを出て、専用バスで悠々自適の球場入りとなる。
ナイト・ゲームが続く場合はもっとラクで、球場入りは15時半頃になるため、ミーティングが始まるまでは基本的には何をしてもよい。ホーム・チームと違って早めに球場入りして練習というのはできないので、ホテル内のトレーニング施設で汗を流してもまだ時間が余る。
空いた時間は映画などを観に行って気分転換する選手もいるぐらいだ。なお、試合後に呑みに出掛けるのはビジター・ゲームのみ。と言っても、昔と違って今では夜の街には繰り出さない選手も多い。前述の通り、最近の選手は自己管理が徹底しているので、酒を呑み過ぎてコンディションが狂うのを恐れるのだ。外で呑むとすれば、翌日が休みで当日は移動しない場合がほとんどだろう。現在ではホテルが豪華な食事を用意しているので、連戦の時は外で食事する必要もない。

セ・リーグがパ・リーグに勝てないのは単なる実力差だけではない
しかし、ここまで話したのは既に前日までに移動していた場合だ。移動ゲームとなると、話は全く変わってくる。移動ゲームというのは、移動したその日に即ゲームを行うことだ。
木曜日のナイト・ゲームが遅い時間に終わったり、あるいは早く終わっても次の遠征先が遠かったりする場合は翌日の移動となる。つまり、金曜日の朝早くから移動し、休む間もなく球場入りすると練習を済ませてすぐに試合だ。これがプロ野球選手にとって非常にキツい。もちろん、3連戦の2戦目、3戦目はビジター・チームの方がラクだと言っても、遠征が続いて自宅になかなか帰れないと、疲労がたまるのは当然だ。
ところで、セ・パ交流戦は2005年から始まり今年で21回目となったが、パシフィック・リーグが勝ち越したのは実に18回、セントラル・リーグはたった3回と、パ・リーグが圧倒している。
その原因は『実力のパ』と言われる現れという面もあるが、それ以上に移動による差が大きい。
セ・リーグの本拠地は、読売ジャイアンツ(巨人)と東京ヤクルト スワローズがいずれも東京、横浜DeNAベイスターズが横浜、中日ドラゴンズが名古屋、阪神タイガースが西宮(兵庫)、広島東洋カープが広島と、全て東海道・山陽新幹線の沿線だ。つまり各本拠地が1本で繋がっている。
特に巨人が明治神宮球場で、あるいはヤクルトが東京ドームで試合をする場合、ビジターとは言え自宅から通うことができるのだから、実質的にはホーム・ゲームと同じだ。あるいは横浜スタジアムでの試合の場合も、巨人やヤクルトの多くの選手はホテルに宿泊する必要はない。したがって、リーグ戦の約半分は遠征する必要がないのだから在京セ・リーグ球団は非常にラクだ。
だが、パ・リーグの場合は北広島(北海道)の北海道日本ハム ファイターズや福岡の福岡ソフトバンク ホークスなど、飛行機で移動しなければならない場所がある。また、仙台の東北楽天ゴールデンイーグルスや、新幹線の駅や空港から遠い所沢(埼玉)の埼玉西武ライオンズの遠征も地味にキツい。
パ・リーグの選手はこの遠征に慣れているが、セ・リーグの選手は飛行機で日本全国を飛び回る経験に乏しいため、交流戦になるとこの移動に面食らってしまうのだ。それで、遠征疲れがモロに出て実力を発揮できず、パ・リーグのチームに惨敗するケースが多い。

ただ、セ・パ問わず最も厳しいのは地方遠征だという。それも1ヵ所に留まるのならいいのだが、大抵2ヵ所以上は回ることになる。これはホームもビジターも関係ない。
阪神の元通訳から聞いた話だが、北陸遠征が最も悲惨で、初日の福井での試合が終わるとホテルには戻らずシャワーも浴びずユニフォーム姿のままバスに乗り込み、夜中に金沢へ長時間移動。プロレス用語でいう『ハネ発ち』だ。次の日、金沢での試合が終われば前日と同じくバスに乗り富山へ移動する。ホテルで休む間などほとんどない。富山での最終戦が終わるともうヘロヘロだ。
プロ野球選手よりもプロレスラーの遠征の方が過酷な理由
プロ野球選手よりもさらに過酷なのが、プロレスラーの遠征である。NPBは基本的に3連戦システム、つまり3日間は同じ場所に留まるが、プロレスの場合は遠征した翌日には別の場所に移動するなんて珍しくない。要するに、NPBにおける北陸遠征のようなことが当たり前にあるのだ。
それでは、今年の7月12日にアメリカのシカゴに遠征し、帰国してからの新日本プロレスのスケジュールを見てみよう。