ケン・片谷『メシとワセダと時々プロレス』㉜原点 その4:FSR参戦! えっ? Wじゃないの?[ファイトクラブ]ジョージ高野伝説

[週刊ファイト3月15日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼ケン・片谷『メシとワセダと時々プロレス』㉜
 原点 その4:FSR参戦! えっ? Wじゃないの?
 photo by 山下達也、猪俣謙次
・札幌にあるアマチュアプロレス団体『EWA』
・FSRが北海道釧路市でアマチュアトーナメント開催!選手募集
・1996年11月2日、宇和野、近藤、片谷の3人が釧路入り!蛇の穴ことコブラジム
・ジョージ高野「なかなか上手いね。何かやってたの?」
・コブラ伝説の真相!ジョージ高野は大物だった
・釧路市ヒルトップ・レインボーホール『第1回 FSR格闘トーナメント』
・“伝説のキックボクサー”上田勝次vs.ジョージ高野
・ギャラはFSRコブラTシャツ2枚(赤ヴァージョン&青ヴァージョン)


 ワカマツさんからの連絡に待ちくたびれていた時、北海道第2の団体に動きがあった! 今度こそプロレスラーへの道は拓けるのか? リアル蛇の穴、コブラジムの実態とは? ジョージ高野と夢の対決!? プロレス界の噂、ジョージ高野が大物と言われる理由が今明らかとなる!

どさんこプロレス『道場元気』倶知安(くっちゃん)大会終了後、待てど暮らせどワカマツさんから連絡は来ません。
それでも、「次のシリーズが決まったら、また連絡するから。」というワカマツさんの言葉を信じて待つしかありませんでした。

いつ開催されるか分からない“次期シリーズ”を待ちながらも、決して稽古は欠かしません。ワカマツさんから“伝授”された足の運動(ヒンズースクワット)は、毎日500回ずつこなしました。来る日も来る日も「稽古はウソをつかない」というワカマツさんの言葉を信じて…。

月に一度は、宇和野貴史や近藤博之らと合流し、札幌にあるアマチュアプロレス団体『EWA』の道場に出稽古に出掛けました。オイラが住んでいた町から札幌まで の距離はおよそ200㎞。車で片道4時間近く掛かります。EWA道場で2時間から3時間の稽古を終え、自宅に帰るともうクタクタ!
それでも、EWA道場での稽古はいつも楽しかった。同じ志を持った者が互いに切磋琢磨し汗を流した経験は、今となってもいい思い出です。稽古の後には、決まって宇和野を連れて食事に行きました。当時の宇和野は、まだ17歳の高校生。毎回同じ回転寿司屋へ行き、プロレスラーになる夢を語っていました。その回転寿司屋は今も札幌の中心部にあります。店の前を通る度にあの頃のことを昨日のことのように思い出すのです。

その頃、足立知也はひとつの決断をしました。あてにならないワカマツさんの態度に業を煮やし、東京でプロを目指すと言うのです。「どうしてもプロレスラーになりたい」という足立の意思は固く、当時旗揚げされたばかりの『東京プロレス』の練習生となりました。
そんな足立の姿をちょっぴりうらやましく思いました。オイラだって『プロレスラーになりたい』という気持ちは足立に負けない。しかし、今は地方公務員の身である故、北海道から出ることはできない。やっぱりワカマツさんからの連絡を待つしかないのです。

淡い期待を抱きながら、毎週『週刊プロレス』の「ニューススクランブル」のコーナーを隅から隅まで読みました。それでも足らず、はみ出し記事にも目を通しましたが、どこにもどさんこプロレスの興行予定は載っていません。
気付けば、どさんこプロレス最後(?)のシリーズから2年の月日が流れていました。

半ば諦めムードで、その週も週プロを購入しました。当然、どさんこプロレスのニュースは載っていません。しかし、他にものすごい記事を発見してしまったのです!

『FSRが北海道釧路市でアマチュアトーナメント開催! “第1回 FSR格闘トーナメント”参加選手募集』

1996年にジョージ高野さんが北海道・釧路市で旗揚げした『FSR』が、トーナメント参加者を広く募集するというのです。

 1980年3月28日、新日本プロレス蔵前国技館大会 ジョージ高野&ストロング小林組

FSRとは“Fighting Spirit Wrestling”の略。つまり、団体名は“FSW”にならないとおかしいのですが、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった『FMW』との混同を避けるために“FSR”としたのです。ちなみにFSRのロゴマークには、よく見るとRの前に小さな“w”が付いています(笑)!

既にFSRは、釧路で何度か興行をおこなっていました。そこには、維新力さんや初代タイガーマスクも出場しています。
大の飛行機嫌いで知られる佐山さんですが、なんとフェリーで釧路まで来たそうです。ほぼ同時期に新日本プロレスでデビューされた両者の友情が強く感じられるエピソードですね。

話を戻します。格闘トーナメント開催の記事を見た宇和野から、すぐに電話がありました! 宇和野は興奮気味に「片谷さんは出ますか? 近藤さんは出ると言っています!」と言いました。
「もちろん出るよ!」咄嗟にオイラはそう答えました。
さぁ、次の目標ができました。アマチュア参加のトーナメントと言えども、団体の主宰者は新日本プロレスやSWSでメインイベントを張ったあのジョージ高野さんです。トーナメントで好成績を修めれば、プロへの道も拓かれるはずです。
それを裏付けるかのように、記事には『トーナメント優勝者は、ジョージ高野への挑戦権が与えられる』と書いてありました!

トーナメント開催まであと2ヶ月。この日からさらに猛特訓が始まりました!

 1983年11月3日、新日本プロレス蔵前国技館 王座決定戦でデイビー・ボーイ・スミス破りNWA世界jr王座戴冠

大会直前、FSRから連絡が来ました。
それは「釧路に前日入りできないか?」という内容でした。どうやら、ルールミーティングを兼ね、道場で合同練習をしようということのようです。
もちろんオイラは、二つ返事でOKしました!

大会前日の1996年11月2日、宇和野、近藤、そしてオイラの3人は釧路に入りました。FSR道場は、ジョージさんの分身ザ・コブラのリングネームにちなんで『コブラジム』と呼ばれていました。リアル“蛇の穴”です! 場所は、釧路から少し離れた『大楽毛(おたのしけ)』という所にあります。こんなことがなければ、もしかすると一生耳にしない地名かもしれません。自宅から車でおよそ10時間。土地勘も無く、カーナビも存在しない時代によくぞ辿り着いたなと思うほどの田舎町でした。

広大な平原の中にポツンと大きな倉庫がありました。これぞ、蛇の穴ことコブラジムです。
恐る恐る道場の中に入って行くと、数名の練習生らしき人物の中に一際大きな影が見えました。ジョージさんです!
我々3人はガッチガチに緊張しながらも、ジョージさんに対し深々と頭を下げました。
道場内には、カメラクルーの姿も見えました。地元のNHK釧路放送局が今回の大会を密着取材するそうです。

 1984年1月6日、新日本プロレス後楽園ホール コブラvs.小林邦昭戦

早速、合同練習が始まりました。その輪の中にはジョージさんもいます。当時38歳。現役バリバリのジョージさんでしたから、稽古も先頭に立っておこなっていました。
ジョージさんによる、キックやタックルの指導の後、スパーリングへと移りました。ここでなんと、ジョージさん自らが元立ちを買って出たのです!

スパーリングは、明日の試合を想定し、ルールと同じ3分間を計測しておこなわれました。
元立ちであるジョージさんを中心に、練習生が次々と入れ替わっていきます。

ついにオイラの番になりました。憧れの、しかも超大物のジョージさんに直接稽古をつけてもらうことができたのです!
目の前にしたジョージさんの体は、想像以上に大きく感じました。オイラは、どう向かっていったらいいか分かりません。まさに、蛇ならぬコブラに睨まれたカエルです!
先にジョージさんが仕掛けてきました。と言っても本気の100分の1にも満たないミドルキックだったと思います。オイラは瞬時に回り込むように蹴りをかわし、逆にジョージさんの軸足にローキックを入れました。ジョージさんがボソッと「上手いな…。」と呟いたのが聞こえました。本来なら、飛び上がるほどうれしい瞬間ですが、今はそんな余裕はありません。
次に、得意のタックルを試みました。すぐにジョージさんは反応し、完全にがぶられて(上から覆い被されて)しまいました。ジョージさんの巨体に乗っかられてしまうと手も足も出ません。金縛りにでもあったかのように全く身動きが取れなくなりました。それでも必死にもがき、何とか反そうとしますがジョージさんはびくとも動きません。プロレスラーの強さを、身をもって感じた瞬間です。

オイラの動きが完全に止まったところでタイムアップとなりました。離れ際ジョージさんがオイラに「なかなか上手いね。何かやってたの?」と聞いてきました。
「はい。レスリングと空手を少し・・・。」恥ずかしながら答えるも、内心プロレスラーから誉められたことが嬉しくて仕方ありませんでした。

合同練習が終わり、全員で近所の銭湯に行きました。憧れのプロレスラーと一緒に大浴場に入る。明日の試合のことは一瞬忘れ、すっかり子どもの頃のただのプロレスファンに戻っていました。

ここで、プロレス界に伝わるある噂を思い出しました。その真偽を確かめる絶好のチャンスが巡ってきたのです!

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2013年7月26日、BattleAidプロレスリングで復活したジョージ高野
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