[週刊ファイト11月23日号]収録 [ファイトクラブ]公開中
▼今年は仮想通貨元年!プロレスと仮想通貨との共通点
by 安威川敏樹
・1万円札は、なぜ1万円なのか
・仮想通貨とは何か?
・ビットコインとはWWEである
・ファンの信用のうえに成り立っているプロレス
のっけから私事で恐縮だが、今は仮想通貨で頭がいっぱいである。
と言っても自ら仮想通貨を始めようというわけではなく、仮想通貨に関する記事を書いてくれという依頼があったからだ。
しかし筆者は、仮想通貨に関してはズブの素人、というより全く知らない。なにしろ筆者は、金融に関することが最も苦手なのだ。
自慢ではないが、筆者は「剣道七段、空手七段、金もうけ四(し)らん!(ニッ)」である。もちろん、これは『プロレススーパースター列伝(原作:梶原一騎、作画:原田久仁信)』からの引用だが、剣道と空手については大ウソだ。しかし、金儲けに関しては本当に何も知らない。
そんな筆者に、仮想通貨のことについて書けという。しかも30記事も。ムチャぶりもいいところだ。試しに何本か仮想通貨に関する記事を書いてみたが、全く筆が進まない。仮想通貨について調べながら書かなければならないので、時間がやたらかかるのである。
締め切りの日も迫ってくるし、いくら時間があっても足りないと思い、今週号の『週刊ファイト』での執筆は休ませてもらおうと思った。だが、突如閃いた。仮想通貨に関して調べていくうちに、何かに似ているなと思い始めたのである。
そう、仮想通貨はプロレスに似ている、と。
1万円札は、なぜ1万円なのか
仮想通貨考察と大仁田厚を信用するか、ウソつきと断罪するか
それでは、仮想通貨とはどういうものなのか?最近は話題になっているとはいえ、日本では利用している人はまだまだ少ないので、知らない人も多いだろう。そこで筆者が得たばかりの知識で、素人目線によりザックリ説明してみよう。
今、日本で流通している通貨は、言うまでもなく円である。日本で米ドルや中国の元などを使おうと思っても無理な話で、日本円に両替しなければ使うことはできない。
しかしなぜ、日本人は円を普通に使っているのだろうか? 1万円札を1万円という価値で使うことに、我々は疑問を感じたりはしない。
だが冷静に考えてみると、1万円札なんてただの紙だ。その製作費は原材料と印刷代など込みで僅か23円程度だという。ちなみに千円札の製作費は約15円だそうで、1万円札との差額はたったの8円だ。ところが実際には、1万円札の千円札では9千円もの差がある。実に理不尽な話ではないか。
しかし我々は、何の疑いもなく1万円札を1万円として認めている。それはなぜなのだろうか?
1万円札に限らず、日本で発行される札の正式名称は日本銀行券という。つまり、札は日本銀行が発行する券なのだ。
鉄道会社が発行する切符のような存在である。たとえば南海電鉄の切符を持っていれば南海電車には乗れるが、阪神電車には乗れない。日本銀行券は日本では通用するものの、アメリカや中国などの外国では使えないのである。
ちなみに日本銀行券は日本銀行が勝手に発行しているわけではなく、日本国政府の命令により発行しているのだ。
我々が1万円札を1万円の価値があると認めているのは、日本国政府や日本銀行を信用しているからに他ならない。昨日は千円で買えた物が、今日は1万円になっているようでは、とても日本円は信用できないだろう。
仮想通貨とは何か?
ここで、ようやく仮想通貨の説明に入る。一口に仮想通貨と言っても、その種類は6千以上にものぼるという。しかも、その性質は仮想通貨によってまちまちだ。仮想通貨によって、仕組みが全く違うのである。
そこで、仮想通貨でも最も有名なビットコインを例にして説明してみよう。仮想通貨のことは何も知らなくても、ビットコインという言葉は聞いたことがあるだろう。
ビットコインは、仮想通貨の中ではシェア6割を誇る時価総額ダントツの1位であり、仮想通貨=ビットコインという認識の人も少なくない。
ビットコインに限らず仮想通貨は、インターネット上にしか存在しない金銭である。『コイン』と銘打ちながら、実際にはコイン(硬貨)や札などない。
また、ビットコインには日本銀行のようなものも存在しない。ビットコインを利用する人には、ビットコインに関する金銭のやり取りのデータが送られてきて、全員で監視することによって信用を得ているのである。要するに、ビットコインには錦の御旗がないのだ。
それ故に、日本ではビットコインなどの仮想通貨を信用しない人がほとんどなのである。かくいう筆者もその一人だ。それでもビットコインは現時点で最強の仮想通貨であり、日本でもビットコインを取り扱っている店舗が増えている。
「ブッチャーの悪役哲学!!それは『愛』とか『友情』を信じないこと、信じるのは『自分』と『金』だけだとハッキリいう」と『列伝』では語られていたが、『自分』はともかく『金』は残念ながら信用できるような代物ではない。
アブドーラ・ザ・ブッチャーがよく利用するであろう米ドルや日本円などはたしかに信用できるかも知れないが、それとて絶対的に信用できるのかと言えば、そうとは限らないのである。
たとえば、北朝鮮から日本に核ミサイルを撃ち込まれて、北朝鮮に占領されたら日本円はどうなるのか。おそらく、1万円札は何の価値もない紙クズと化してしまうだろう。占領されなかったとしても、戦後の大混乱により大インフレーションが起こらないとも限らない。
戦場となった地には大インフレが起こるのは世の常。第一次世界大戦後のドイツでは、トランク1杯分の札束がコーヒー1杯分の価値にしかならず、しかもコーヒーを飲んでいる間に急激なインフレが起きて金の価値が半減し、コーヒー1杯の値段が札束トランク2杯分になってしまったなんてことは実際にあった話だ。
もっと言えば、たとえ日本円の信用が保てたとしても、重大な食糧危機に陥れば1万円札なんて何の役にも立たない。腹が減っても、人間は札束を食って生き延びるわけにはいかないのだ。ヤギだったら札束を食って生き延びることもできるだろうが。
そもそも最近では、給料を現金で受け取る人は少ないだろう。大抵は銀行振り込みである。そこには札束のやり取りは存在しない。数字上で金のやり取りをしているだけである。
そこに、仮想通貨とどういう違いがあるのか。一番の違いは『日本円』という、日本国政府による錦の御旗があるかないか、である。
ビットコインとはWWEである
通貨をスポーツと置き換えた場合、仮想通貨はまさしくプロレス的である。なぜなら、プロレスには協会がないからだ。かつての日本には日本プロレス協会が存在したが、同協会が認めていたプロレス団体は日本プロレス興行のみだ。日本プロレス興行以外のプロレス団体を、日本プロレス協会は認めなかったのである。
故に日本プロレス興行が崩壊すれば、日本プロレス協会も消滅した。結局、日本プロレス協会は「日本のプロレス協会ではなく、日本プロレス興行のための協会」に過ぎなかったのだ。
他のスポーツでは、こんなことは有り得ない。世界のサッカーを統括するのはFIFAであり、その下部組織として日本には日本サッカー協会(JFA)がある。格闘技では、ボクシングには世界にWBA,WBC、IBF、WBOの4大団体があるが、団体というよりは協会もしくは連盟に近い組織だ。そして日本には日本ボクシング・コミッション(JBC)がある。これらの組織によって、サッカーやボクシングの権威や秩序は保たれている。
ところが、プロレスにはそれがない。
かつてのアメリカにはNWAがあったが、これはプロモーター同士の利益を守るための同盟組織であり、協会とは呼べないものだった。現在でもNWAは存在するが、かつての威光は全く無くなっている。
AWAはNWAから分裂した団体であり、一応はアソシエーション(協会)という名は付いているが、実態はただのプロレス団体だった。
WWWFもNWAのニューヨーク支部という団体だったが、その後は本家のNWAを上回り、現在ではWWEと改称して世界最大のプロレス団体となっている。
サッカーのFIFAやボクシングのWBAなどは、まさしく米ドルのような存在だ。米ドルはアメリカ合衆国という世界最強の政府による後ろ盾があって、世界的に信用されている通貨である。
そして日本円は、サッカーでいうJFAやボクシング界のJBCのような存在であろう。日本国政府の後ろ盾によって日本銀行が発行する金は、誰もが信用する。『ドラゴンボール(作:鳥山明)』の世界のように、ゼニーなんて貨幣を生み出しても、誰も信用したりはしない。
仮に筆者が「新しいプロボクシング団体でござい」と新団体を立ち上げても、誰も相手にしないだろう。
ところがプロレス界では、それが通用しない。誰でもプロレス団体を興すことができるし、ある意味では世界チャンピオンと自称することもできるのだ。
この関係は、仮想通貨に似ている。仮想通貨は政府の承認がなくても発行できるし、星の数ほどの仮想通貨がある。
ビットコインのような揺るぎない強力な力を持った仮想通貨もあれば、吹けば飛ぶような詐欺的な仮想通貨があるのも事実だ。実際に、弱小の仮想通貨に投機してしまい、大損してしまった人もいる。また、信用できると思われていた仮想通貨が、ハッキングにより壊滅状態になってしまったこともあった。
例えて言うならば、ビットコインは世界最強のプロレス団体であるWWEだ。日本発祥のモナコイン(大型掲示板『2ちゃんねる』から誕生した)は、新日本プロレスのようなものか。
しかし、世界最強のビットコインとは言え、安泰というわけではない、仮想通貨という市場自体が近年に現れたばかりの、全く安定していない世界なのだ。したがって、ビットコインがいつ暴落するかもわからない。
ましてやビットコインなどの仮想通貨は、国家の後ろ盾がないのである。世界最強プロレス団体のWWEだって、いつ破綻したっておかしくはない。かつては世界最大と言われたNWAも、あっという間に壊滅状態になってしまったのだ。
そしてローンチ(一般公開)されても、すぐに消えてしまう仮想通貨もある。プロレスで言えばインディー団体のようなものだろう。仮想通貨はハードルが低い分、消滅するのも早いのだ。プロレスのインディー団体と全く同じである。
だから仮想通貨の世界では、名もなき弱小の通貨が存在する。日本で無数のプロレス団体が現れては消えるようなものだろう。
ファンの信用のうえに成り立っているプロレス
ボクシングなどの普通のスポーツは、協会や連盟による信用によって成り立っている。ところが、プロレス界には協会なんて存在しない。日本だけではなく、世界にも、である。WWEは営利団体であって、協会や連盟ではない。新日本プロレス、全日本プロレス、プロレスリング・ノアなどもそうだ。
プロレスには協会や連盟による後ろ盾がない分、ファンの信用によって生き残るしかないのだ。これは仮想通貨における、会員が全員で監視するシステムに似ている。
ファンに支持されれば値は上がるし、ソッポを向かれれば暴落する。
仮想通貨は前述したとおり、会員同士の監視によって信頼を得ている通貨だ。これをプロレスに置き換えれば、ファンによる監視で成り立っている世界である。
いくら勝っても、ファンに支持されなければレスラーとして失格であるし、たとえ負けても内容が良ければ称賛されるのがプロレスの世界だ。
これは他のスポーツ界では有り得ないことであり、たとえば反則がいくらあってもファンが良しとすれば評価されるのがプロレスである。ボクシングでは、マイク・タイソンが相手の耳を噛んだり、亀田大毅が相手を投げ飛ばしたりすれば、協会により大問題となった。
ところがプロレスでは、たとえ大反則でもファンが喜べばOKなのである。場外乱闘などという、他のスポーツでは許されない行為が、プロレスではファンの喝采を呼べば許されるのだ。
つまり、プロレスとはファンの信用によって成り立っていると言える。この点は、仮想通貨と全く変わりはない。
2017年は、仮想通貨元年と言われている。今までは胡散臭いと思われていた仮想通貨が、一気に大ブレイクするかも知れない。
そして、仮想通貨と同じように胡散臭いと思われていたプロレスが、ブレイクするかも知れないのだ。
それを可能にするのが、ファンの支援である。世界最強の仮想通貨であるビットコインだって、利用者から支持されなければ、あっという間に暴落するだろう。
力道山が作った日本プロレスも、あれだけ隆盛を誇っていたのにファンからの支持を失うと簡単に崩壊してしまった。今では盤石と思われるWWEだって、いつ崩壊してもおかしくはない。協会や連盟の後ろ盾がないプロレス団体は、ファンからソッポを向かれると実に脆いのである。
そのかわり、プロレスはとてつもないパワーを秘めている。たとえばビットコインの日本における市場規模をご存知だろうか。2017年11月現在で14兆220億円と、並み居る大企業を押しのけてトヨタ自動車に次ぐ2位なのだ。もはやビットコイン、そして仮想通貨は日本経済界では無視できない黒船のような存在である。
世間からは何となく信用できないと思われている仮想通貨とプロレス、それが利用者(ファン)から絶大な信用を得れば、今までの金融界やスポーツ界の概念をブチ壊す存在になるかも知れない。