[ファイトクラブ]追悼part2 ボビー・ヒーナン、ハルク・ホーガンにハンディキャップ・マッチを挑む!

[週刊ファイト10月5日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼ボビー・ヒーナン、ハルク・ホーガンにハンディキャップ・マッチを挑む!
 Text by 安威川敏樹
・ニック&ヒーナンに立ちはだかるホーガン
・ファンタジーから現実へ
・偉大なる悪徳マネージャーよ、永遠なれ!

 悪徳マネージャーとして知られるボビー・ヒーナンが、現地時間9月17日に72歳で亡くなった。
 レスラー兼任とはいえ主な役目はマネージャー、しかも来日回数はたったの3回なのに、日本のプロレス・ファンにも知名度が高いのは、やはり強烈なキャラクターゆえだろう。1970年代から悪徳マネージャーとしての地位を確立した功績も見逃せない。ヒーナンがいなければ、現在のアメリカン・プロレスも大きく姿を変えていた可能性が高いのだ。

 ヒーナンと切っても切り離せない存在だったのが、当時のAWA世界ヘビー級チャンピオンだったニック・ボックウィンクルだろう。当時のAWAルールは、世界タイトル・マッチだと王者の反則負けではタイトルが移動しなかったため、ボックウィンクルとヒーナンはこのルールを存分に悪用した。
 王者のボックウィンクルがピンチになると、マネージャーのヒーナンが決まって乱入、反則負けとなって王者ニックがタイトル防衛、というのがお決まりのパターンだった。“史上最低の世界チャンプ”ボックウィンクルと、“史上最悪のマネージャー”ヒーナンの史上最低最悪コンビによって、AWA世界王座は守られ続けたのである。

ニック&ヒーナンに立ちはだかるホーガン

 このボックウィンクル&ヒーナンの前に大きく立ちはだかったのがハルク・ホーガンだった。当時はまだ無冠だったホーガンはボックウィンクルのAWA世界王座に挑戦、必殺アックス・ボンバーでピン・フォール勝ち寸前までボックウィンクルを追い込むも、例によってヒーナンが乱入して反則勝ち、王座移動はならなかった。
 怒りのホーガンはリング上で「お前ら2人と1対2で闘ってやる!」と宣言。「2対1といってもこっちがタッグを組んで交代で闘うのと、2人が同時に向かっていく方法があるぜ」とヒーナンが答える。

「2匹束になってかかって来やがれ!」とホーガンが吠えると、会場は大爆発した。いくら“インクレディブル(信じられない)”ホーガンといえども、世界チャンピオンを混ぜた2対1のハンディキャップ・マッチはムチャではないか、と。しかもタッグ方式ではなく、2人が同時に襲い掛かってくるのである。
最初は世界王者としてのプライドが邪魔をしてボックウィンクルは気乗りしなかったが、ヒーナンに説得されてこのハンディキャップ・マッチを受諾した。ホーガンに対して内容では完全に負けており、次にホーガンの挑戦を受ければベルト移動は自明の理だったので、背に腹は代えられぬ状況だったのである。

 世界チャンピオンと組むという圧倒的有利な条件だったヒーナンだが、ホーガンの力は侮れないと感じていた。そこでヒーナンは、シカゴにあった三浦美幸(男)が経営する空手道場に入門、大金を輸送するガードマンだと偽って、目突きや金的蹴りといった反則技を学んだ。元々はプロレスラーのヒーナン、空手もどんどん上達していったのである。ニックが王座を失えば俺も食いっぱぐれる、その一心で空手の反則技を習得していった。

 遂に試合の日が来た。ボックウィンクルとヒーナン、いきなり2人がかりでホーガンに襲い掛かる。しかもヒーナンは目突きを敢行した。ホーガンは間一髪でかわすも、この空手の反則技に恐怖する。世界王者とレスラー兼マネージャー、2人がかりの攻撃にさしものホーガンも一方的に攻められる。
 それでもホーガンは隙を見て、ボックウィンクルをロープに振って必殺のアックス・ボンバー!ところがヒットする寸前で、ヒーナンの金的蹴りがホーガンの急所を直撃した。悶絶するホーガン。命拾いしたボックウィンクルがようやく起き上がる。
 ヒーナンに空手反則技を教えた三浦師範はプロレスのことを全く知らなかったが、たまたまプロレス好きの少年部員にこの試合のことを教えられ、テレビを見た三浦師範は激怒。「神聖なる空手をプロレスの反則に悪用するとは許せん!こうなったら2対1で闘う、あのホーガンという勇気ある男をみんなで応援してやろう!」と三浦師範は道場生たちに言った。

 しかし、ヒーナンの金的蹴りでホーガンは完全に戦意を失う。チャンスと見たボックウィンクルは遂に得意技のボストン・クラブ(逆エビ固め)で絞り上げた。悲鳴を上げるホーガンを、ヒーナンは容赦なく蹴りつける。ホーガンのギブアップは時間の問題だった。
 ところが、ここでホーガンはとんでもない逆襲に出た。蹴ってくるヒーナンの足を掴み、そのままヒーナンをボックウィンクルにぶつけて、ボストン・クラブからの脱出に成功したのだ。いくらホーガンが怪力とはいえ、完全に極められた逆エビ固めからは脱出できるわけがない。2対1のハンディキャップ・マッチだからこそ脱出できたのだ。

 そこでホーガンは悟った。複数の敵を相手にするときは、相手の体を凶器として、敵同士をぶつけ合わせるのである。これはアブドーラ・ザ・ブッチャーが、少林拳コンフーの師匠であるガマ・オテナに教わったのと同じ戦法だった。この戦法で、ホーガンはボディ・スラムでヒーナンをボックウィンクルにぶつける。そして2人の首を掴んで、頭同士を鉢合わせさせた。
 完全にグロッキーとなったヒーナン。しかしボックウィンクルは王者の意地で抵抗を続ける。ここでホーガンはボックウィンクルをロープに飛ばし、さっきは失敗に終わった必殺のアックス・ボンバー!
まともに食らったボックウィンクルは完全に失神、ホーガンのKO勝ちとなった。しかしハンディキャップ・マッチだったため、ホーガンはまたしてもAWAベルトを巻くことはできなかった。

ファンタジーから現実へ
 ……とここまで読んだほとんどの読者は失笑していると思われる。ちなみに「失笑」とは「笑いも出ないほど呆れる」と解釈している人が多いが、正しくは「思わず笑い出してしまう」という意味だ。このコラムを読んだ読者の反応は、その両方だろう。

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 そう、これは1980年代初めに大ヒットした史上最高のファンタジー・プロレス漫画「プロレススーパースター列伝(原作:梶原一騎、作画:原田久仁信)」のハルク・ホーガン編に収録されている試合だ。こんな荒唐無稽なシチュエーションながら、ノンフィクションを謳っていたこともあって、連載中は誰もが本当のことと思い込み、夢中になって読んでいたものである。
 しかし当時の読者たちも大人となり、またネット社会になって多くの情報が入ってくるようになったため、この漫画のほとんどがウソ、と言って悪ければファンタジーだということがわかったのだ。なお、コラムの途中で登場する「少林拳コンフーの師匠であるガマ・オテナ」というのは、「列伝」のアブドーラ・ザ・ブッチャー編とザ・グレート・カブキ編に登場する、架空の人物である(少林拳コンフーって……)。

 したがって、ニック・ボックウィンクル&ボビー・ヒーナンvsハルク・ホーガンのハンディキャップ・マッチも当然のことながら梶原先生の創作……。
と思いきや、なんと実際に行われていたのだ! これだから梶原ワールドは油断できない。
 しかもなんと、この試合の動画まで残っていた! それでは「列伝」での試合内容と比べながら、実際の試合を見てみよう。

試合序盤

http://www.nicovideo.jp/watch/sm13168833

 リングアナはちゃんと“インクレディブル”ハルク・ホーガンとコールしている!「列伝」で書いてあったことは本当だったのか……。
 試合が始まった。するといきなり、ボックウィンクルとヒーナンは2人がかりの攻撃。ところが、ホーガンは2人を鉢合わせ!なんと、試合早々から「ガマ・オテナ戦法」を悟っているではないか!
 試合がようやく落ち着いて、ヒーナンはコーナーに下がる。……あれ?2人まとめて方式ではなく、タッグ・マッチ方式だ。さすがに2人まとめて方式ではリアリティがなさ過ぎたか。

試合中盤

http://www.nicovideo.jp/watch/sm13168881

 ホーガンがボックウィンクルをロープに飛ばすと、ホーガンはうつ伏せになってボックウィンクルは飛び越えて、ヒーナンと無意味に激突。これもホーガンの「ガマ・オテナ戦法」か?
 ほとんどボックウィンクルがローン・バトル。これはヒーナンの体力を考えてのことかも知れない。それにしても「列伝」と違って、最初からホーガンが攻めまくっている。

試合終盤

http://www.nicovideo.jp/watch/sm13168928

 遂にホーガンの伝家の宝刀、アックス・ボンバーがボックウィンクルに炸裂!しかしヒーナンがカットに入り、ピン・フォールは免れる。日本だったら、アックス・ボンバーが飛び出したらほぼ間違いなくカウント3なのに……。
それもそのはず、アメリカでのホーガンのフィニッシュ・ブローはレッグ・ドロップ(ギロチン・ドロップ)だったのだ。土地によって技の威力が変わるというのも、プロレスの奥深さか。
 ボックウィンクルが命からがら、ヒーナンにタッチすると、ヒーナンは反則攻撃。が、レフェリーは気付かない。古典的なホールスタッグだ。

 しかし2人がかりの攻撃にも屈せず、ホーガンはヒーナンを蹴散らし、最後はボックウィンクルにトドメのレッグ・ドロップ! AWA世界チャンピオンから完全ピン・フォールを奪った。

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