永島勝司氏の最新刊「プロレス界最強仕掛人 永島オヤジの まぁだま~って読んでみてよ」書評

永島勝司氏の最新刊「プロレス界最強仕掛人 永島オヤジの まぁだま~って読んでみてよ」が晋遊社から上梓された。
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著者の永島氏は東スポ整理部長から新日本の役員マッチメーカーとして一時代を築いた後にWJで奈落の底を見た、プロレス界の天国と地獄を経験した男。
過去の著作でWJや猪木との関係が語りつくされた感があるが昨夏に心筋梗塞で生死の境を彷徨った後にプロレス界への遺言として書き上げたというので新たな事実が出てくるのかを期待して読みはじめた。
 目玉のひとつはやはり猪木についてで、プロレスラーアントニオ猪木に見えることとしてタッグではパートナーをコントロールし自らの出番は美味しい所だけ、唯一しっくりきたパートナーはハルク・ホーガン、だからタッグで猪木は輝かないとの独特な見解を述べている。
人間猪木寛至に感じることは猪木との関係が良くない時は会うと永島に「周りがうるさくて」と自分は永島に他意は無いと言いつつも携帯電話にかけると一切出ない、しかし誕生日には蘭の鉢植えを送ってくる人たらし、三重人格と至近距離からの目撃者の証言は関係者に共通しているが東スポ時代からの友人でもある永島氏でさえも猪木の掌に乗せられている様子がリアルに書かれている。
 
 目を引いたのは興行収益についてで、1995年10月9日東京ドームでのUWFインターナショナルとの対抗戦を例に挙げて純益が三億五千万!と断言。粗利でなく純益というのに驚かされる。
 交流戦のギャラについてもUインターへのギャラは八千万、全日本プロレスの三千万、大日本に五百万と今のプロレス界では考えられない金額と交渉過程が明記されているのは単に自己の功績とよき時代の回顧だけでなくパイの小さくなったプロレス界への叱咤に感じられる。まさに考えつくしたマッチメークや仕掛けを繰り返していた行け行けの1990年代の永島勝司だがその反面、長州ヒクソン戦の仕掛けについてはヒクソンのギャラ一億で内諾させ、長州には偶然のバッティングで反則負けでもいいじゃないかと口説くなど短絡的で唖然とする部分もある。
 他にも金本が昔欠場したのは表向きは怪我だが実は場外でやくざをボコボコにして・・・とか、谷津のWJの役割は八割営業で契約などエピソードも多岐にわたって書いてあり、ふむふむとうなずきながら読み進められる。
 この本で一番納得させられたのはマスコミの予想をいかに裏切るかに重きを置いてマッチメークしていたという部分で永島氏はマスコミの中に試合前にかかわらず予定稿を書いたり、強いか弱いかはそっちが作ってるんじゃないのとにやける記者を一刀両断しながらも、「予想を裏切れ」とマッチメーカーやプロレス関係者に対する苦言が行間から読み取れマッチメーカーというのはファンとの勝負でどんな仕掛けをしたら面白いだろう? 当たり前は面白くない当たり前じゃないことを考え仕掛けたのが永島イズムという部分で、これこそプロレス界への遺言であると思われる。
 
 興行収益の数字などは真実とは断定できないがプロレスを分析する為の資料として重要。色々な資料を読み、同じことを全く異なる視点からみることでプロレスという底が丸見えの底なし沼の存在に気がつくことになり、プロレスの奥深さを感じ楽しめるはず。 ただしこの本の数字やエピソードもプロレス界最強仕掛人永島勝司のアングルの可能性があると注意して読む事も必要だ。
 私が面白いなと感じたのは、記者として冷静に回顧している心情と、マッチメーカーとしての心情が渾然一体となって表現されている点だ。豊富な記者経験とマッチメーカーでの体験に鋭い洞察がたくさんつまっているので、本書を読むだけでもプロレスを見たい気持ちが高まる。
 永島氏がプロレスを愛し続ける一人の男である事は間違いない。
プロレス界最強仕掛人 永島オヤジの まぁだま~って読んでみてよ
永島勝司 ・著
・単行本(ソフトカバー)
・出版社:晋遊舎
・発売日: 2012年6月8日
・価格:1,470円(税込)
・256ページ
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