アナタはどの説を信じますか? 猪木vsアリにはミステリアスな魅力がある!

 最近宝島社から発売された『別冊宝島 プロレス下流地帯』というムック本がかなり売れているらしい。この本は専門誌などではタブー視されていたプロレスリングNOAHに関して、巻頭から結構厳しいことを書いている。
 地上波中継の打ち切りから始まって、招待券が多いという話題や“業界一のウルサ型フロント”として仲田龍統括部長についてプロレス記者が覆面座談会を行っている。さらに一時期新日本プロレスのチケットをバラ撒き、坂口征二や木村健悟と深い繋がりがあった円天についても特集が組まれている。
 どうにもワクワクしながら読める内容ではないが、ここまで書いてあれば裏話好きのプロレスマニアもそこそこ満足できそうではある。
 この本の中にも登場している元『週刊プロレス』編集長のターザン山本氏は、自身のホームページ内で「ノアという団体には、これまでプロレスマスコミはそうっと触れてきた。宝島社は業界誌ではないので、そういうところは自由だ。アンタッチャブルな部分にも真っ向勝負をしている」「もう、やり方がどぎつい。えげつない。しかし、その編集者根性はある部分、たいしたものとして評価する必要がある」とこの本を大絶賛している。
 これだけプロレス不況が叫ばれ、どの団体もチケットを売るのに必死の中、潜在的なマニアはまだまだいるというか、プロレスという業界はまだまだファンに“知られたらマズイ”ことがあるみたいで、そういうことを詳らかにしていくと食い付きがいいようだ。
 そういう怪しげなものに対して、「実はその裏にはこういうことが隠されていたんですよ」という話が好きなのは、なにもプロレスマニアだけではない。
 2006年に発売されたお笑い芸人のハローバイバイ・関暁夫が書いた『都市伝説』という本は、80万部以上も売れ、その後の都市伝説ブームの火付け役となった。UFOや幽霊、占いにスピリチュアル、とかく日本人というのは謎めいたものが大好きなようだ。
 そういう意味で、いまこのミルホンネット内で一番怪しげなものといえば、間違いなくアントニオ猪木vsモハメド・アリ戦の真相についてだろう。
 昨年、スポーツ誌『Number』などで活躍したライターの柳澤健氏が、世界中を飛び回って関係者の証言を集めた上で書き上げた著書『1976年のアントニオ猪木』が発売されて大きな話題を呼んだ。関係者の証言といっても記憶が曖昧だったり、ウソを言っている可能性はないとも言い切れないため、この本に書かれていることすべてが“真実”とは限らないが、柳澤氏は関係者の証言を「ピースの欠けたパズル、カードの足りないトランプでやる神経衰弱」と形容した。なんだかそう言われると、「たぶん今まで世に出た本の中では、一番真実に近いのだろうな」という気になってくる。
 つまり今まで定説とされていた“猪木にとってがんじがらめのルール”というのは、猪木を守るためのウソだったが、試合は紛れもなく真剣勝負であり、この試合を含めて猪木のリアルファイトこそが現在の総合格闘技の礎になっている。ドラマティックで、読んでいてワクワクするものがあったし、これが猪木vsアリの真実なんだろうな…そう思った人も多いだろう。
 当然柳澤氏はこの『1976年のアントニオ猪木』に猪木へのインタビューを掲載するつもりだったようだが、なぜだか断られたそうだ。ところが、この度文庫化するにあたり猪木へのインタビューにGOサインが出たようで、今月“完全版”として発売されるそうだ。楽しみに待っているファンも多いと思うが、それよりも先に真っ向からこの本に「真実は違う!」と異を唱えたのが、タダシ☆タナカ+シュート活字委員会が当ミルホンネットで発売した電子書籍『徹底検証!猪木vsアリ戦の”裏”』だ。
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 この本でタダシ☆タナカ氏は「猪木vsアリは“ケツが決まっていた”。お互いが信頼のもとに頭や体を対戦相手にゆだねる“仕事”の試合ではなかったとはいえ“これぞ真剣勝負!”と定義するには無理がある」と言い切っているのだ。なかなかショッキングというか、決して楽しく読めるものではないが、今まで世に出てた猪木vsアリに関して書かれた書物とは、一線を画すものではある。
 タナカ氏がそこまで書く理由というか、裏付けもキチンと書かれてはいるが、ネットなどで調べてみると、このタダシ☆タナカという人物、結構叩かれているようだ。元々学生プロレスの裏方をやっていて、その後『週刊ファイト』のライターをやったり、ニューヨークで証券マンをやったりしていたが、「プロレスは結末、勝ち負けが決まっている。それを前提に、試合の面白さや選手の巧さを評価しよう」という”シュート活字”を提唱した人物とのことだが、「PRIDEを潰したA級戦犯」とも呼ばれているらしい。かなり怪しげではあるが、だからといって彼の書くことはすべてデタラメだと言い切れるのだろうか?
 裏ではなにをやっているか分からないが、表向きは国民的人気者のアントニオ猪木が主張する「俺にとってはがんじがらめのルールだった」という説を信じるか、あの『Number』で活躍したライターが地道に関係者の証言を取って積み上げた「がんがらめルールというものはなかったが、試合自体はリアルファイトだった」という説を信じるか、元学生プロレスの裏方でシュート活字を提唱するライターの「がんじがらめルールなんてないのはもちろん、ケツも決まっていた」という説を信じるか…それはもう、それぞれの作品なり、インタビューなりを読み比べて各々が判断するしかないだろう。
 食わず嫌いというか、「怪しげだから」という理由だけで読まずに批判だけしても意味がない。某プロ書評家のようにおかしな部分にツッコミを入れてもいいし、とにかく金を払って読む価値があるのは間違いない。怪しいものが大好きな人にはとくにオススメだ。猪木vsアリにはケネディ大統領暗殺やダイアナ妃の事故死の裏に隠された“陰謀”説と同じくらいミステリアスな魅力がある。ただし、信じるか信じないかはアナタ次第だ。
プロレス芸術とは�徹底検証!木vsアリ戦の”裏”