昨年9月、船木誠勝を破りストロングスタイルプロレス(SSPW)のレジェンド王座を奪取した黒潮TOKYOジャパン。本人も「まさか」という戴冠だったが、そこから関本大介、関根“シュレック”秀樹と怪物級の挑戦者を退け、長期政権も視野に入ってきた。
8月27日(木)の後楽園ホール大会では、団体生え抜きの間下隼人を相手に3度目の防衛戦を迎える。船木、関本、シュレックと錚々たる相手を降してきた黒潮だが、間下に対しては「何をしてくるか分からない」と不安を口にする。
一方、主宰する『プロレスリングアップタウン』では、若手の指導とプロデュースに大きな手応えを感じている。レスラー、王者、プロデューサー。充実期にある黒潮に、それぞれの立場から話を訊いた。
怪物たちを退けて迎えた王者1年

――レジェンド王者となり1年の節目が近づいてきました。
黒潮 早いですね。家にあるベルトを見ても、いまだに「これ俺のか?」と思います。実感は本当にゼロです。それにしても対戦相手の癖が強いですよね(苦笑)。船木誠勝は“昭和の怪物”で、関本大介、シュレックも怪物。「何なの、この防衛ロード!?」って(笑)。
――ですが、そういった実力者を降してきたことで王者として説得力が増してきたように思います。そんな戦いの中で最も印象に残ったのは?
黒潮 シュレックですね。冷蔵庫と試合しているみたいでした。本当に持ちにくい、500㎏ぐらいの冷蔵庫を倒すことができた感覚になって気持ちよかったです。船木さんや関本さんとの試合もスゴかったけど、シュレックさんは試合が終わって翌日に「会いたいな」って思ったんです。それぐらい印象的でした。
――何がそこまで残ったのでしょう。
黒潮 「ちゃんと今日を迎える気で来たんだな」っていうのを試合の中で感じて、プロレス人生の中でも上位で印象に残りました。ただ、リングでは二度と会いたくなくて普通にプライベートで会いたいです(笑)。
「何をしてくるか分からない」未知の間下隼人が一番怖い
――そこから3度目となる今回の防衛戦では間下選手を迎えます。印象はどうですか?
黒潮 俺にとって未知で、どんな選手なんだろうと思ってます。今までの相手はそれぞれ対策を考えられましたけど、間下はそもそもどんな選手なのかが分からない。ただ試合を見た印象では、他の選手を引き立てる優しい人というか、自分が前に出るより相手に譲っているように見える。俺、そういうの大嫌いなんですよ。
――遠慮している様子が見えるというか。
黒潮 でも、やっと回ってきたレジェンド王座に挑戦する試合で、対戦相手を引き立てるとかは関係ないから、今まで見せてない“本当の間下”で来ると思ってます。逆に言えば、その部分が見えないから怖い。
――これまで接点はなかったですか?
黒潮 ほぼゼロです。俺が船木さんからベルトを獲った時、次の挑戦者として間下の名前を出しているんですけど、正直、デビューして2年ぐらいの若手だと思ってました。安全策として名前を出したつもりだったんです(笑)。

――実際には2007年デビューで、黒潮選手より先輩です。
黒潮 そうなんですよね、俺は2011年デビューだから普通に先輩じゃんって(笑)。完全に勉強不足でした。でも、長くストロングスタイルプロレスにいて元王者でもあるのに、俺が知らなかったっていうのは「これまで何をしてたんだよ」っていう気持ちもあります。これを読んでアイツが怒って、ムチャクチャに来るかもしれないけど、それはそれで。もし今まで見せてきた間下が100あるうちの20か30だとしたら、100で来られたら俺は勝てないかもしれない。
――王者らしからぬ弱気な発言です。
黒潮 試合に対する不安はないんですけど、何をしてくるのか、どんな選手なのか分からない。まぁ強いんだろうし怖さはあるけど、急に顔を蹴られて立てないなと思ったら、もう俺は立たないので(笑)。でも、そういう“何をしてくるのか分からない怖さ”は今までで一番あります。外国で知らない相手と試合するみたいな感じがあります。
――ですが、そういった未知の相手とじっくり向き合うことができるのもSSPWならではと言えるのでは?
黒潮 それはあります。他の団体に呼ばれる時は、カードや試合順を見て、誰に言われる訳でもないですけど、「今日は賑やかし要員だな」「盛り上げ役だな」って自分で役割を考えることが多いんです。だから後楽園のメインで、シングルをガッツリやれるっていうのは貴重だし楽しいです。
――黒潮選手の普段とまた違った面を見せる試合が続いている気がします。
黒潮 SSPWの観客は昔からプロレスを見ている人もいれば、初めて来たような人もいる。その反応が客席ごとに違うんです。「西側は新規のお客さんが多いな」と思えば西にはこれ、南にはこれ、と変えています。でも、お客さんはずっと盛り上がってくれて、試合だけに集中してやれるから自分はすっごい面白いです。
――黒潮選手はそのように、試合中も常に観客の反応を見ているのですね。
黒潮 対戦相手を見ずに、もう外しか見てないかもしれないです(笑)。会場や観客の反応を見て、どうするかを変える。だから勝率がエゲつなくて、2%ぐらいなんだと思います(笑)。でも、今はそうやって「負けてもいいや」と思ってやっていて、まぁまぁ勝っているから不思議です。彼女がほしい時にはできなくて、いらないと思った時にできる、みたいな感じですかね(笑)。
自分の試合より面白い――アップタウンで見つけた新たな喜び
――現在は自身の団体、アップタウンで若手の指導もしています。
黒潮 今はそれがめっちゃ楽しいです。自分が試合をするより面白いかもしれない。若手に「こうした方がいいんじゃない?」と言って、それを試合でやってお客さんにウケた時、自分が若手時代に考えたことをやって初めてウケた時と同じぐらいの感動がある。それを今は何人分も味わえるんです。

――指導、プロデュースする側としても喜びを見出しているのですね。
黒潮 みんな同じことをさせる訳じゃなくて、各々の個性を引き出すようにしています。ヘッドロック一つでも「お前はこうやりな」「お前はこうやるといいよ」ってやり方を変えていて、このやり方は珍しいと思います。全員に同じやり方を教えていたら、世に出た時に似たような動きをする選手が多いと思うんです。でも、うちは個性でやり方を変えているので所属選手は全員似ないし、全員違う選手にしたいと思ってます。
――スクワットや腕立て伏せを膨大にこなす、昔ながらのやり方とは違うのですね。
黒潮 僕自身は14歳でハッスルに入って、腕立て伏せ500回のあとにライオン・プッシュアップ500回みたいなこともやって、それが普通だと思ってました。でも、それを他の人にやらせる必要はないというか。あまり根性論で育てたくなくて、もし根性論で育てたら、将来的に俺に依存すると思うんです。もちろん根性論は大事ですけど、そうじゃない選手の方がプロレス界での立ち回りができる、自分で金を稼いでくる感じがします。
――型にはめるのでなく、個性を活かす・伸ばすのですね。
黒潮 もう20年近くプロレス界にいて、NXTでもいろいろなコーチの練習を受けましたけど、本当にスゴいと思ったのがTAJIRIさんとデイブ・フィンレーです。型にはめた練習をするのでなく、選手に自由にやらせて、その中で「これ、いいじゃん」っていう部分を見つけて伸ばしていく。その選手のよさを見抜く力が2人は尋常じゃなくて、特にTAJIRIさんの影響は大きいです。
「グッズが売れる=強い」黒潮流の“分かりやすいプロレス”
――個性の他に、教える上で大事にしていることはありますか?
黒潮 僕はもともと「子どもにでも分かるプロレスをしよう」と思ってやってきて、それは絶対どこかにあります。アップタウンで教えているのも一見さん向けのプロレスです。やろうと思えばみんな玄人向けのプロレスもできますけど、一見さん向けのプロレスの方が難しい。だからそっちに特化して教えてます。それに一見さん向けのプロレスが一番グッズが売れるんです(笑)。明るい分かりやすいプロレスをしてお客さんを掴めば、グッズは売れる。俺はグッズが売れる=強いだと思ってます(笑)。
――これはこれまでになかった強さ論です(笑)。
黒潮 物販の熱も勝負のうちというか。以前観て印象づけた人は試合前に買ってくれて、初めて観た人は試合後に並んでくれるというのを目標にしています。だからリーゼントでバク宙する選手がいて、かわいくて飛べる選手がいて、喧嘩腰だけど普段はかわいい選手がいたり、やっぱり分かりやすさが大事だし、それを第一にやってます。俺も分かりやすいですよね(笑)。
――では、そういった点でいうと今回の相手である間下選手は……

黒潮 何がやりたいのか分からない。ただいるだけ、みたいな感じ。俺がSSPWで何をしたいかは明確で、グッズを売りたい。だからチャンピオンでありたい。
――間下選手を破った後の展開はどう見ていますか?
黒潮 挑戦者を逆指名していいなら阿部史典です。SSPWにレギュラーで出ている中で、俺と阿部が会場人気でワンツーだと思う。その二人が後楽園のメインでシングルをやってもいいんじゃないかという気持ちはあります。
――阿部選手には特別な思いがある?
黒潮 阿部はインディーの象徴というか。フリーで自分で仕事を取って、ギャラを決めて、グッズを作って売る。その大変さが分かるし、阿部みたいなやつと後楽園のメインという舞台で試合をしてみたい。阿部が挑戦表明に出てきたら、俺はちょっとニヤッとすると思います。
――そのためにはまず間下戦を越えなければなりません。
黒潮 今回間下を乗り越えたら、スーパー・タイガーや阿部のようなストロングスタイル色の強い選手とシングルをやっていけるのかなと思って、その辺は楽しみではあります。ただ今回のタイトルマッチは怖い。
――それでは最後に意気込みをお願いします。
黒潮 間下は「SSPWをお前には変えさせない」と言っていますが、それならガッツリ変えてやろうと思ってます。防衛し切って挑戦者がいなくなったら、アップタウンの選手を挑戦させて、メインイベントで“アップタウン提供試合”みたいにしたい(笑)。それぐらいチャンピオンとしてSSPWの流れを変えてやろうっていう気持ちはあります。

対戦カード・大会概要
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