[ファイトクラブ]『日本のマクマホン』ナベツネ氏逝去! 結果的にNPBを改革した!?

[週刊ファイト1月2日]期間 [ファイトクラブ]公開中

▼『日本のマクマホン』ナベツネ氏逝去! 結果的にNPBを改革した!?
 by 安威川敏樹
・ビンス・マクマホンと並ぶ独裁者:ナベツネ氏
・1リーグ8球団制を推進しようとしたナベツネ氏
・「たかが選手が」発言でファンの怒りを買い、2リーグ12球団制を維持
・Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎氏とナベツネ氏との大舌戦
・出でよ『日本プロレス界のナベツネ』!?


 先日、ナベツネこと渡邊恒雄氏が98歳で逝去した。本稿では敬意を表してナベツネ氏と呼ぶが、読売新聞社グループ本社代表取締役主筆という超大物だ。
 読売新聞と言えば、真っ先に思い浮かぶ人物は『大正力』こと正力松太郎氏だろう。大正力は、弱小新聞社に過ぎなかった読売新聞を一流の全国紙に押し上げる。大正力の死後は、その片腕だった務臺光雄氏が実権を握ったが、務臺氏が没するとナベツネ氏が読売新聞社社長に就任した。

 だが、ナベツネ氏が最も有名だった役職は、プロ野球(NPB)の読売ジャイアンツ(巨人)のオーナーだろう。大正力の死後に巨人のオーナーを務めていたその長男の正力亨氏を閑職の名誉オーナーに追いやり、ナベツネ氏自ら読売新聞社社長兼巨人軍オーナーの地位に就いた。
 その権力は独裁的で、巨人のみならずNPBに大きな影響を与え、コミッショナーですらナベツネ氏の傀儡と言われたのである。

 独裁者という点では、プロレス界で最もナベツネ氏に近いのはビンス・マクマホンだろう。マクマホンがオーナーを務めたWWF(現:WWE)は全米を制圧し、NWAやAWAを壊滅させた。
 とはいえ、ナベツネ氏の場合は一球団のオーナーにもかかわらず、プロ野球界を事実上動かしていたのだから、スケールの大きさはマクマホン以上かも知れない。

1リーグ8球団制を推進しようとしたナベツネ氏

 巨人軍オーナーとなったナベツネ氏は、巨人を常勝チームにすべく、大金をはたいて他球団から主力選手をかき集めた。それにより、巨人が強くなるだけではなく、他球団の弱体化を図り、巨人が優勝しやすくするように仕向けたのである。
 だがナベツネ氏は、巨人のためだけに大型補強をしたわけではない。NPBの20世紀は『巨人あってのプロ野球』と言われた時代。つまり、巨人が優勝すれば野球人気が上昇し、NPB全体が潤うと本気で信じていたのである。

 しかし、いくら他球団の中心選手を強奪しても、チーム・バランスを考えない補強だったので思うように優勝できない。また、当時のプロ野球中継はほとんどが巨人戦だったが、巨人はスター選手の宝庫だったにもかかわらず、21世紀に入ると巨人戦中継の視聴率は低下していった。
 多額の契約金と年俸を払って選手を集めて、この体たらく。費用対効果が悪すぎたのだ。当然ナベツネ氏は、年俸に見合わない成績の選手をコキ下ろした。

 そして、巨人人気の低迷は、NPB人気の低迷も促す。その意味では『巨人あってのプロ野球』そのものと言えるのだが、要するに巨人以外の球団にスター選手が不足したので、他球団の経営も圧迫したのだ。
 当時の日本社会は、バブルが弾けて平成不況の真っ只中。NPB球団を持つ親会社も、プロ野球に資金を注ぎ込む余裕がなくなった。

 そして2004年、遂に大事件が勃発。球界再編騒動である。
 まだ交流戦などない時代、特に巨人戦のないパシフィック・リーグの球団は赤字に喘いでいた。そんな中、パ・リーグのオリックス・ブルーウェーブと大阪近鉄バファローズが唐突に合併を発表。この流れで、NPBは一気に1リーグ制へと大きく舵を切った。もう1組、2球団を合併させ来季から10球団1リーグとし、ゆくゆくは8球団1リーグにするという構想である。

 この8球団1リーグ制を強引に推し進めたのが、当時はオーナー会議の議長も務めていたナベツネ氏だった。ナベツネ氏は「球団を2/3に減らせば、1球団当たりの収入は1.5倍になる。こんな簡単な計算は小学生でもできる」と1リーグ8球団制にする理由を解説する。
 だが、この時点でナベツネ氏は、もっと簡単なことに気付いていなかった。それは、球団を2/3に減らせば、ファンの数も2/3以下に減るということを。そして、怒らせたファンの恐ろしさを。

▼2球団が合併したオリックス・バファローズも、その2年後の京セラドーム大阪はガラガラ

「たかが選手が」発言でファンの怒りを買い、2リーグ12球団制を維持

 急速に球団削減を進めようとするナベツネ氏と各球団のオーナー連中。しかし、選手たちにとっては死活問題だった。球団が少なくなるということは、自分たちの働き場所が減るということであり、当然のことながら失業者が増えることを意味していたからだ。
 当時、プロ野球選手会の会長だった、ヤクルト スワローズの古田敦也が「オーナーたちと話し合いたい」と言うと、その発言を聞いたナベツネ氏が言い放った。
「たかが選手が」

 この一言により、事態は一変する。それまで世論は、既にオワコンで赤字を垂れ流し続けるNPBだと球団削減も仕方なし、というムードだったが、ナベツネ氏の発言はファンの怒りを買った。
「我々は『たかが選手』を見るために球場へ足を運んだり、テレビで野球観戦したりするんだ。オーナーを見たいわけじゃない。ファンをナメるな!」
 野球ファンは球団削減に反対する署名活動を展開。この運動は一気に全国へ広がった。

 たとえば木谷高明氏が「たかがレスラーが」などと言ったら、プロレス・ファンは怒り狂うだろう。そして新日本プロレスやスターダムの所属のレスラーも、ほとんどが現団体を離脱して新団体を設立するに違いない。
 それがプロレス界では可能だが、プロ野球界では不可能だ。それでもプロ野球選手会は、無抵抗ではなかった。

 2004年の終盤に、選手会は遂に日本球界初のストライキを決行。それでもオーナー連中は、タカを括っていた感があった。ストなんてすれば、選手会はファンの反感を買うはずだ、と。
 ところが、ファンはこのストを全面的に応援したのだ。メジャー・リーグ(MLB)でも何度かストを行ったが、ファンの反応は冷ややかだった。『金持ち同士のケンカ』と揶揄し、MLBはファン離れを招いたのである。

 だが、日本の野球ファンはストを支持した。これだけファンから応援されるストなんて、古今東西世界中のどこを探しても、この時のNPB以外にはないだろう。
 昔は春闘のシーズンになると鉄道のストが毎年のように行われたが、乗客から「よくぞやった、鉄道職員の諸君!」なんて称賛は聞いたことがない。普通ならストなんて利用者にとっては迷惑以外の何物でもないし、野球ファンからすれば大好きな野球を観れなくなるので、選手会がストなんて勝手なことをすれば大衆は球団側の味方になってくれるとオーナー連中は思っていたのだ。

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