[ファイトクラブ]阪神タイガース、浦和レッズ、そしてプロレスそれぞれのファン気質

[週刊ファイト11月23日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼阪神タイガース、浦和レッズ、そしてプロレスそれぞれのファン気質
 by 安威川敏樹
・なぜファンは暴動を起こすのか!?
・阪神ファンと浦和サポーターとの違い
・新日本プロレス三大暴動事件
・無意味な乱入劇を連発し、ファンが暴動
・新日本プロレス最大の失敗作、海賊男乱入事件
・猪木信者にとってはビートたけしですら虫ケラ同然


 今年のプロ野球は阪神タイガースの38年ぶり日本一で幕を閉じた。日本シリーズの相手はオリックス・バファローズということで、関西ダービーと呼ばれて大阪の街が大いに盛り上がったのは周知のとおりである。

 阪神ファンと言えば、プロ野球で最も熱狂的として有名。今年の日本一を決めた時も、警官が1300人も動員して警戒したにもかかわらず、37人もの阪神ファンが道頓堀川に飛び込んだ。この阪神ファンの熱狂ぶりは、いかにも関西的だとも言われる。
 だが、大阪のチームであるオリックスのファンが道頓堀川に飛び込んだということはない。今年、オリックスがリーグ優勝しても、去年はオリックスが日本一になっても、道頓堀川に飛び込んだオリックスのファンは1人もいなかった。つまり、ファンの熱狂度は関西か否かは関係ないということか?

▼道頓堀川に架かる戎橋から多くの阪神ファンが飛び込んだ

阪神ファンと浦和サポーターとの違い

 阪神ファン以外で熱狂的と言えば、サッカーJリーグの浦和レッズのサポーターだろう。だが、浦和サポーターは阪神ファンとはかなり気質が違う。
 浦和サポーターは阪神ファンよりも熱狂的、というより過激だ。いわゆるフーリガンである。

 今年8月、レッズが天皇杯四回戦で名古屋グランパスに0-3で敗れた後、浦和サポーターがピッチに乱入して暴動を起こすという事件があった。プロ野球でも1973年、阪神が勝つか引き分ければ優勝となる阪神甲子園球場での最終戦で、9連覇が懸かった読売ジャイアンツ(巨人)に0-9で大敗して優勝を逃し、怒った阪神ファンがグラウンドになだれ込むという暴動があったが、それは50年も前の話である。阪神ファンだけではなく、この時代のプロ野球は他球団のファンでも暴動事件は多かった。
 浦和サポーターが暴動を起こしたのは、21世紀になって20年以上も経った令和の時代だ。しかも、優勝が懸かった試合でも地元の試合でもなく、名古屋で行われたアウェイでの試合である。

 この事件により、52人もの浦和サポーターが入場禁止処分を受けることになった。これは2023年11月15日現在の話で、今後はもっと増えるかも知れない。
 浦和レッズは、言うまでもなく首都圏のチーム。つまり、ファンの熱狂度に関西や関東は関係ないということだ。実際、前述したように大阪のオリックスのファンはおとなしい。

 野球とサッカーとのファン気質の違いというのもあるだろう。世界的にも、サッカーのサポーターはかなり過激だ。特に有名なのが、サッカーの母国であるイングランドのフーリガンである。
 だが、同じイングランドのサポーターでも、ラグビーでは過激なファンは見当たらない。応援歌『スイング・ロウ・スイート・チャリオット』を歌うときはド迫力だが、暴動を起こすことはないのだ。つまり、フーリガンが存在するのはお国柄というわけではないのである。

 サッカーのサポーターが過激な理由の一つに、サッカーはロースコア・ゲームが多いことも関係しているかも知れない。ロースコアということは、常に接戦になるということであり、最後まで気が抜けないことに繋がるのだ。そんな中で贔屓チームが負けると、腹の虫が治まらない。
 野球やラグビーでは大差になる試合がかなり多いが、負け試合でもファンは最後まで楽しもうとする。勝敗以外のプレーに楽しみを見出すわけだ。

 また、阪神とレッズの違いに、阪神は常勝チームではない、ということがあるかも知れない。阪神は今年の日本一が38年ぶり、リーグ優勝でも18年ぶりだ。プロ野球の歴史的には巨人に次ぐ2番目の名門ながら、巨人に比べると優勝回数は圧倒的に少ない。巨人のライバルと呼ぶのが恥ずかしいぐらいだ。
 巨人のV9時代、阪神はいつも優勝争いをするも必ず最後には敗れ、1990年代は万年最下位の暗黒時代を迎える。だが、そんな中でも阪神ファンはタイガースを見捨てなかった。ダメな息子ほど可愛いというが、弱い阪神を『ダメトラ』と自虐しながら阪神の試合を楽しんだのである。

 それに対してレッズは、日本で唯一と言っていいビッグ・クラブ。実績も充分で、サポーターはレッズが負けることを許さない。それが『贔屓の引き倒し』に繋がっていると言えるだろう。
 レッズのエリート意識は、他チームへの蔑視にも繋がる。今回の暴動も、名古屋サポーターから挑発を受けたと思い込んだことから発展したと言われた。

 浦和サポーターに似ているのは阪神ファンというより、新日本プロレスのファンだ。と言っても、現在の新日ファンではなく、昭和の新日ファンである。

無意味な乱入劇を連発し、ファンが暴動

 プロレス黄金時代と言われた1980年代、数々の暴動事件が起きた。特に有名なのが、1984年6月14日の『呪われたIWGP事件(東京・蔵前国技館)』、1987年3月26日の『海賊男乱入事件(大阪城ホール)』、1987年12月27日の『たけしプロレス軍団事件(東京・両国国技館)』だろう。
 これらは『新日本プロレス三大暴動事件』と言われ、このような暴動はライバルの全日本プロレスでは起こっていない。また、東京と大阪のファンが暴動を起こしているので、地域性は関係ないと言える。つまり、当時の新日ファンに暴動を起こす気質があったわけだ。

 新日ファンの気質は浦和サポーターと似ていると書いたが、暴動を起こす理由は異なる。浦和サポーターの場合、というより普通のスポーツでファンの暴動が起きるのは贔屓チームが無様な負け方をした時だが、プロレスの場合だと勝ち負けは関係ない。
 たとえば『呪われたIWGP事件』の場合は、アントニオ猪木がハルク・ホーガンに勝ってIWGPチャンピオンとなったのだが、それでも猪木ファンは暴動を起こした。

 その前年、1983年6月2日に蔵前国技館で行われた第1回IWGP決勝戦で、猪木はホーガンに『舌出し失神KO』で惨敗を喫する。しかし、この時の猪木ファンは『猪木の無様な負け方』を見ても暴動は起こさなかった。ただ呆然としていただけである。
 IWGPは世界統一を目指した大会。つまり、優勝者は世界一強い男という称号を得るわけだが、その称号は猪木ファンにとって猪木以外に有り得なかった。

 悪夢の失神KO事件から1年、ファンは第2回IWGP決勝戦での猪木のリベンジに期待する。前年と同じカードで、猪木がホーガンにフォール勝ちすれば何の問題もなかった。
 だが、この頃のホーガンはWWF(現:WWE)のチャンピオンとなり、今までと違いそう簡単に猪木にセールできる立場ではない。猪木はフォール勝ち以外でホーガンに勝つ方法を考えなければならなかった。

 そこで思い付いたアングルが、長州力を乱入させ、どさくさに紛れてリングアウト勝ちを拾う、というもの。
 試合は場外乱闘となり、長州が猪木にリキ・ラリアートをお見舞いした。これはまだ判る。当時の長州は猪木と抗争を繰り広げていたのだから。
 ところが長州は、なぜかホーガンにもラリアートを放った。これはホーガンのアックス・ボンバーと相打ちになる。
 ホーガンが場外で倒れている間に、猪木はいち早くリングに上がり、リングアウト勝ちが宣告された。これで猪木がリベンジを果たし優勝、世界一奪還なる!

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