[ファイトクラブ]潮崎豪優勝、準・拳王『N-1 VICTORY’23』総括:残すジェイク・リー対抗馬

 プロレスリング・ノアのシングルリーグ戦・『N-1 VICTORY 2023』は潮崎豪のシングルリーグ初優勝で幕を閉じた。開幕前からGHCヘビー級王者であるジェイク・リーに待ったをかける存在が誰になるのか注目されていたが、【潮崎優勝・拳王準優勝】でジェイクの対抗馬を残しつつ秋シリーズへと突入する、絶好の流れでリーグ戦を終えられたのではないだろうか? 筆者がそのように感じた理由とは・・・。


[週刊ファイト9月14日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼潮崎豪優勝、準・拳王『N-1 VICTORY’23』総括:残すジェイク・リー対抗馬
 photo & text by 鈴木太郎
・前年覇者や有力ベテラン不在も動員増のN-1
・『誰がジェイク・リーを止めるのか』に対する名回答
・先人技多様より気になった潮崎豪の”信じきれない新戦法”
・緩急より力業に終始した優勝決定戦の潮崎
・ジェイク撃破で準優勝も名古屋結果次第で拳王GHCチャンス?
・準優勝もMVP級活躍の拳王
・ジェイクの格落とさず【潮崎優勝・拳王準優勝】の理想的結果
・参考になる2015年『GLOBAL LEAGUE』の”鈴木みのる無敗で敗退”
・格落とさずに次々期挑戦者の座もキープした拳王の妙技
・征矢学&稲葉大樹2022年不参戦組大活躍も不安は一過性なのか?
・2021年大会で苦杯も大躍進
・懸念する”一過性の強さ”
・独自考察:サイコ・クラウン-イホ・デ・ドクトル・ワグナーJr因縁急遽勃発
・NOAHマット外に求めた次期挑戦者と『MONDAY MAGIC』が因縁の理由?
・9・24ナショナル王座決戦は線になるか、点で終わるか・・・


■プロレスリング・ノア 『ABEMA presents N-1 VICTORY 2023』
■日時:2023年9月3日(日) 16:00開始
■会場:大阪・エディオンアリーナ大阪第1競技場
■観衆: 2,121人

 プロレスリング・ノアの毎年恒例となっているシングルリーグ戦『N-1 VICTORY 2023』は、潮崎豪のリーグ戦初優勝で幕を閉じた。
 今回のN-1では、前年度覇者の清宮海斗が新日本プロレスの『G1 CLIMAX』参戦により不在。前年度準優勝の鈴木秀樹に加え、前回大会にエントリーされていた船木誠勝、藤田和之、望月成晃、杉浦貴(※6月中旬より負傷欠場)といった50代のベテラン選手達もエントリー無しと、一気に陣容の入れ替わりが見られるリーグ戦に。しかし、結果としてリーグ戦の中身は前年以上に盛り上がり、清宮や名のあるベテラン勢の不在を感じさせることはなかった。また、動員についてもコロナ禍以降は後楽園2~3連戦で平均300人台という時期が当たり前だったNOAHで、8・9~8・11に開催した後楽園ホール3連戦は622人⇒661人⇒926人と一気に動員が伸びた。優勝決定戦の行われたエディオンアリーナ大阪第1競技場でも2,121人を動員するなど、エル・デスペラード参戦で何とか2,000人を越えた今年2月の大阪ビッグマッチから動員も微増したのである。川崎市出身の大原はじめによる連日の広報活動で、前年の825人から倍増となる1,694人をマークした、8・27カルッツかわさき大会の存在も非常に大きかった。

 今回のN-1を語る上で外すことの出来ないテーマの1つは、『誰がジェイク・リーを止めるのか』ということにあったと考えている。2023年1月に突如NOAHマットに上陸したジェイク・リーは、約2ヶ月で清宮海斗の保持するGHCヘビー級王座を奪取することに成功。中嶋勝彦、丸藤正道、杉浦貴と主力を次々と撃破し、『王者のまま全勝優勝』という目標を掲げて今年のN-1に参戦した。拳王や潮崎豪など、ジェイクの対抗馬として最有力候補が残る中、伏兵と思われたマサ北宮やジャック・モリスがジェイクと30分ドローの熱戦を展開。今回のリーグ戦では、ジェイクへの対抗馬を増やしつつも本命候補を残せたまま終えることが出来たのではないだろうか?

先人技多様より気になった潮崎豪の”信じきれない新戦法”

 30分超えの死闘を制し、激闘を終えた潮崎の下に現GHCヘビー級王者のジェイク・リーが登場。9・24名古屋国際会議場大会にて『ジェイク・リーvs.潮崎豪』が正式決定した。
 自身キャリア初となるシングルリーグ戦優勝を成し遂げた潮崎であったが、優勝決定戦では圧倒的な拳王コールに押される場面も多く、逆境の中で優勝をもぎ取った印象が強い。試合後には、田上明のダイナミックボム、三沢光晴のローリングエルボーやエメラルドフロウジョン、小橋健太のムーンサルトプレスと、NOAHの象徴的な先人による得意技を使用して拳王に勝利した事への物言いが、プロレス系のライターや一部ファンからも見られた。しかし、筆者としては取るに足らない意見だと考えている。そもそも、今年の潮崎は丸め込みを織り混ぜる形振り構わぬスタイルで勝利してきた事もあり、優勝決定戦で先人の技を使うこともこの一環だと考えれば整合性は取れる。そして何より、2017年6月に潮崎が勝利して以降、直接対決で拳王が4勝1分と大きく勝ち越している現状があった。強いチョップにリミットブレイク、ゴーフラッシャーといった投げ技から豪腕ラリアットを決める、元来の真っ向勝負が通用しない相手には、奥の手を抜くより勝ち目は無かったのである。

 ただ、先人の技を使うこと以上に気になったのは、潮崎本人のファイトスタイルだった。今回のリーグ戦期間中、【丸め込みからの豪腕ラリアット】という緩急つけた新たな戦法を用いながらも、優勝決定戦では雪崩式変型ブレーンバスターで拳王を強引に投げきるなど、得意なパワーファイトで畳み掛ける本来の姿が見られた。ただ、直近で2度の長期欠場を経験している事や、2023年に41歳を迎えた潮崎にとって、自らの新しい取り組みを未だ信じきれていない様子は引っ掛かるものがあった。今回、長期欠場から今年5月に復帰したばかりという状況や、2020年1月以来となる大掛かりなコスチュームチェンジなど、年齢と共にファイトスタイルを徐々に変えていくにはチャンスと言えるタイミングではあったが、優勝決定戦で何とか雪崩式変型ブレーンバスターを決めた潮崎を見て、今しか見ていないような刹那的感情も抱いてしまったのだ。敢えて言うと「この先の現役生活は、そんなに長くないのではないか」という悲観すらある。とはいえ、天敵である拳王を相手に、手を出したばかりの新たな取り組みでは勝てないとなるのも確かではあるのだが・・・。

ジェイク撃破で準優勝も名古屋結果次第で拳王GHCチャンス?

2019年以来のN-1制覇を狙っていた拳王だったが、優勝決定戦で潮崎に敗れ、惜しくも準優勝という結果に終わった。しかし、拳王とは度々敵対関係にあった丸藤正道から、「彼がN-1を盛り上げていたと思う」とゲスト解説席から評され、優勝決定戦の開始直後から試合後まで大拳王コールが客席から何度となく発せられるなど、支持率の高さを改めて証明する格好となった。
 公式戦ではリーグ戦中盤までに2敗を喫しながら、NOAHマット参戦以降無敗をキープし続けたジェイク・リーに最終公式戦で土をつけ、逆転での優勝決定戦進出。公式戦では、稲村愛輝に「己の力で、会社の力を借りずに上がってこい!」というエールを贈り、2022年11月にNOAHとDRAGON GATE合同で開催した『GLOBAL GATE』でも対戦した吉岡勇紀から勝利を収めるなど、清宮海斗不在のリーグ戦で話題とクオリティの高さを存分に見せつけたのである。

 それだけに、優勝を逃した結果に対してショックを受ける感想も見受けられたが、筆者としては、諸々の状況を加味して導き出された【潮崎優勝・拳王準優勝】という結果は非常に理想的な形だったと考えている。何故ならば、無敗のまま現王者がN-1にエントリーする中でも、ジェイク・リーの対抗馬である潮崎と拳王の2人を、リーグ戦終了後もGHCヘビー級王座戦線に残すことが出来たのだから。

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