[ファイトクラブ]新王者T-Hawkの問題提起とGLEAT年初後楽園の熱量に見た課題点

 2023年初開催となった4・12GLEAT後楽園ホール大会。全体的に所属と所属外の対抗要素が打ち出された興行のメインを制し、シングル王者となったT-Hawkがバックステージで放った言葉は、喜びではなく危機感だった。
 その問題提起を象徴するかのように、中々感じ取れない試合の熱量とエゴの強さは課題点だったように思われる。今回のT-Hawk王座戴冠は、GLEATの攻めの姿勢を取り戻す一手になるのではないだろうか?


[週刊ファイト4月27日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼新王者T-Hawkの問題提起とGLEAT年初後楽園の熱量に見た課題点
 photo & text by 鈴木太郎
・所属団体至宝初戴冠も怒り爆発のT-Hawk
・バックステージの問題提起には伏線があった?
・凄さとカッコ良さ抜群も足りなかった選手の熱量とエゴ
・【派手に見えて空虚】な熱量の希薄さ
・相手の首を取る緊張感に欠けた所属同士のUWFルール
・復帰選手や現王者が駒になる層の厚さと物足りなさ
・結果だけなら驚きも「ウナギ・サヤカ宮城倫子GLEAT追放」現場の異様
・バックステージの嬌声が空しく響くGLEAT女子試合
・受けから熱起こすチェック島谷&田村ハヤト組 外敵ベンディード下しV
・希薄だった熱を取り戻した現タッグ王者組
・T-Hawk悲願のG-REX王座初戴冠壮絶!石田凱士戦ベストバウト’23
・技を通じた感情のキャッチボールに高まる観客のボルテージ
・所属選手への喝や檄&GLEATの意思表示垣間見た王座交代劇
・自ら責を負い問題提起したT-Hawkという心強さ


■GLEAT 『G PROWRESTLING Ver.49 Invader(侵略者)』
■日時:2023年4月12日(水) 18:30開始
■会場:東京・後楽園ホール
■観衆:707人(主催者発表)

 2023年初となったGLEAT後楽園ホール大会。

 大会サブタイトルに【-Invader(侵略者)-】と付けられたように、この日は所属外選手と所属選手による対決が軸となった。
 セミファイナルとメインイベントで組まれたシングルとタッグの2大王座戦もコンセプトに則った構図となり、場内を大いに盛り上げた。

 特にメインイベントで年間ベストバウト級の激闘が展開されたG-REX王座戦では、挑戦者のT-Hawkが王者・石田凱士を破り同王座初戴冠。
 2019年1月のWRESTLE-1チャンピオンシップ以来、約4年3ヶ月振りとなるT-Hawkのシングル王座戴冠。自身が所属する団体の至宝戴冠は、デビュー13年目にして初となった。

 しかし、試合後のT-Hawkのバックステージコメントは、王座戴冠の喜びではなく、怒りと問題提起に満ちた内容となったのである。

「初代王者のリンダマンも20代、石田凱士も20代。おい、他のGLEATのよ、20代の奴らどうした、おいコラ! チンタラチンタラよお、携帯弄って、もっと現実見ろコラ! もっと前見ろ! これが現実だ! これがメインイベンターだ! 悔しかったら、前だけ見て、這い上がって来いよコノヤロー。中途半端ななあ、プロレスラーごっこやってるんだったら、とっとと辞めちまえ。そんな奴は要らないんだよGLEATに。そんだけよ、本気でやってるんだよ!」

 今振り返ると、T-Hawkが指摘した現実に伏線が見られた大会だったように思う。

凄さとカッコ良さ抜群も足りなかった熱量とエゴ

 大会名の通り、外敵侵略がコンセプトに置かれたカード内容は、未知なる存在というフィルターを通して、外敵や所属のカッコ良さやスゴさを引き出す安定した大会となった。

 その一方で希薄だったのが、熱量である。

 特にセミファイナル前までの6試合は、試合からスゴさやカッコ良さは伝わってきても、選手に感情移入してしまう程の前のめりな熱量は今一つ欠けていたように感じられた。
 観客からの声援は飛んでいたし、大会全体の内容も悪くはなかった。ただ、所属選手の力点が、自らのパーソナリティやエゴよりも、立ち回りの上手さや歯車の一つとして回る役割に置かれていた所に、やや物足りなさを覚えたのである。

 難なく技をこなしてしまう器用さ故のものか、内容にノリづらさがあったのかは分からないが、名物のユニット抗争という要素も少なかったせいか、どことなく【派手に見えて空虚】という感は否めなかった。この空虚感は、熱量による部分も大きかった気がする。

 この日行われた【LIDET UWF初代王座決定トーナメント準決勝】では、伊藤貴則vs.飯塚優による所属選手同士の一戦が実現したものの、どこかコントロールされた試合の緩急はプロレス的で、相手を仕留めにかかるUWFルールとの食い合わせの悪さを露呈してしまった。



 打撃の強さで観客を沸かせることには成功したものの、これがプロレスルールで行われていたなら、印象も大きく変わっていたのかもしれない。一瞬で相手を仕留めにかかる攻めというよりは、15分という試合時間を目いっぱい使って双方攻防をコントロールしていた節が否めなかった。


 これは、同じ準決勝でも、隙あらば首を取る緊張感に包まれていた『青木真也vs.佐藤光留』とは対照的だった。

 長期欠場中だった河上隆一の復帰戦も、全体的にガレノ・デル・マルの巨体から繰り出される飛び技にフォーカスした内容で、復帰した河上も駒の一つとして組み込まれる格好に。

 ただ、それ以上に衝撃的だったのが、カズ・ハヤシや田中稔といったベテランが終始黒子に徹し、自らの見せ場を削っていた点だ。

 現GAORA TV王者の田中でさえ黒子に出来てしまうGLEATの選手層に凄みを感じた一方で、世代闘争的な面で寂しさと物足りなさを感じてしまった。

結果だけなら驚きも「ウナギ・サヤカ宮城倫子GLEAT追放」現場の異様
 今大会で唯一組まれた女子プロレス・『宮城倫子vs.ウナギ・サヤカ』は、セミファイナル前に組まれたカードだったものの、盛り上がりの面で今一つという内容に。

 宮城が優勢ではあったものの、厳しい1発1発の攻めをウナギに返されてしまったことは誤算だったか。強大なフィニッシュ1発で試合を制したウナギとの対比に残酷さを禁じ得なかった。
 加えて、敗者がGLEAT追放という誰も得をしない試合前の約束を守る形で、宮城がGLEATを去ると宣言。代わりに細川ゆかりがウナギとのリベンジマッチに名乗りをあげたものの、長すぎた上に内容もイマイチなマイクの前に静まり返る場内と、まばらな拍手。


 後楽園ホールの北側の両サイドは、バックステージから発せられる声がよく聞こえる構造となっている。この日、試合後のマイクで冷え切った会場とは対照的に、北側バックステージ付近からは外国人らしき男性の嬌声や叫び声がこだまする、実に異様な雰囲気が出来上がっていたのである。

 対照的な光景と、居たたまれない空気が会場を重く包み込んだ。

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