[ファイトクラブ]ヤマモ式「今のNOAHにもあの時のUと似た雰囲気」NOAH N-1 VICTORY

[週刊ファイト9月23日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼ヤマモ式「今のNOAHにもあの時のUと似た雰囲気」NOAH N-1 VICTORY
 photo & text by 山本雅俊
・コロナで世界中の経済危機、ましてプロレス界は被害甚大の深刻状況
・武藤敬司やはり天才「コロナ禍をそれ以降のプロレスにどう繋げるか」
・ベストバウト中嶋勝彦vs.田中将斗!拳王vs.カシンのトリッキーな展開
・選手に団体内外問わずの生き残り戦争状況を意図して作り上げている
・死地から生還出来た今現在の心境決して忘れずに!Noah熱戦譜記録


■ ノア N-1 VICTORY 2021 〜NOAH NUMBER ONE PRO-WRESTLING LEAGUE〜
日時:9月12日(日)11:30
会場:東京・後楽園ホール 観衆701人(札止め=主催者発表)

コロナで世界中の経済危機、ましてプロレス界は被害甚大の深刻状況
NOAH公式ファンクラブNOAH’s ARK受付ブース宮木和佳子カメラマンと筆者

 昨年の春先から新型コロナウィルスが蔓延し出して世界中の経済は正に危機に晒されて、決定的な状況の回復はまだ何処の国でも見られていません。

 テレビでは「コロナの中でも暮らしは安定」とか、「コロナのおかげで大儲け」などと言う人達が紹介される事がありますが・・・。それはそのテーマの為にわざわざテレビ局が探して来た少数の人達であって、世の中の大半の人達はコロナのせいで大なり小なりの生活の危機や不便をそれぞれが経験しています。

 プロレス業界は被害甚大でした。
 他のビジネスやスポーツ。娯楽ジャンルと比べてもその深刻さはかなりなモノで、特に今年の夏以降からのこのタイミングになって選手間で感染者が増え出しているのは、少しずつ光が見え出した世間に逆行しているようです。
 とにかく一日も早く良い方向に向かうのを祈るしかありません。

武藤敬司やはり天才「コロナ禍をそれ以降のプロレスにどう繋げるか」

 話は昨年に戻るのですが、コロナの流行で各団体やプロモーションが興行開催に急ブレーキをかけざるを得なくなった時に、団体や選手からいろいろなコメントが出て来ました。

 その中で多かったのが「歩みを止める訳にはいかない。この道を信じてひたすら闘い続ける。」というニュアンスのもの。これは未知のウィルスに対する決意表明ですから、まずこの考えに立つのは当然と言えば当然です。

 ただ正直自分は、これは特にいつもと変わらない月並みな言葉としか感じられませんでした。事はこのコロナ禍という世界的な非常事態です。もっと気の利いたコメントはないのかと思っていたのですが、興行が有観客から配信へとシフトチェンジが進む中で、現在NOAH所属の武藤敬司が
「カメラの向こうには(会場規模以上の)何万何千という人の目がある。俺はそれを意識してプロレスをやる」
 というコメントを出しました。

 自分は常々、ただ漫然とコロナ禍に耐え続けるだけでは無く、皆がコロナ後の世界がどうなるかを考えて行動するべきだと思っていました。

 プロレス会場から観客がいなくなる事は、その分運営に経済的な負担が増す訳で、高い人気と技術の選手で無ければ淘汰されてゆく厳しさが生まれる。
 第三者から見た無責任な意見ですが、その事で改めてレスラー達の生き残り戦争が激しくなりそれぞれのプロレスのスキルが高まるチャンスであると思いました。

 武藤さんは天才ですから、あの「カメラの向こうを意識する」のコメントはさほど考え込まずに出した一言だとは思いますが、プロが発したものとして、それが自分の「コロナ禍をそれ以降のプロレスにどう繋げるか」に最も近い言葉でした。

ベストバウト中嶋勝彦vs.田中将斗!拳王vs.カシンのトリッキーな展開

 奇しくもその武藤敬司がこの数ヶ月の中でNOAHの所属選手となった、サイバーファイト体制下のNOAHを先日初めて観戦しました。

 この一年半、観客は声を出す事を禁じられました。
 ここぞという場面では拍手のみの応援。時間の経過の中で皆がそれに慣れて来たとは言え、やはり本来のプロレス会場の在り方とは違う寂しさは拭えません。
 しかし、感染防止のマスク越しで言葉にはならずとも「ああ!!」或いは「おお!!」の驚嘆の声なら違和感は無く。また一定の安全性も保たれます。

 つまり、観客を煽らずとも技術や試合展開で観る者の心を動かすプロレスを出来るなら、声援が無くとも盛り上がりに何の影響もなくて、むしろそれが気持ちいい世界になる。NOAHの会場は正にそれでした。

 それぞれの試合に見所がある大会でしたが自分には下記の二つの試合に特にそれを感じました。

 まず、この日のベストバウトの中嶋勝彦対田中将斗がその典型で、田中の分厚い胸板に容赦なく放たれる中嶋の重爆キック。そして中嶋の首筋を正に掻っ切る勢いの田中の弾丸エルボーは物凄い迫力。
 無言の観客席はまるで二人の痛みを共有しているようで、声援を送る時とは全く違うモードに入っていました。
 試合の展開にじっくりと集中しながら息を呑んで闘いを見守り続ける事で、皆が充分な満足感を得られたと思います(自分的には今のところ、この試合は今年のベストバウトです)。

 また拳王対カシンの試合の、終始に渡り先が読めないトリッキーな展開は思わぬ掘り出し物でした。

 例えば、二人が場外に落ちる。また、リングアウト直前で慌ててリングに戻る。
 カシンの二枚重ねマスクに騙されて驚く拳王。
 それらの所作にプロレスならではのいわゆるギミックが満載。また、それを単なるコントに終わらせなかったのは、それ以外の場面で披露した二人のレスリングの技術が本物だからです。前記の二枚重ねマスク剥ぎからの逆転フィニッシュが訪れた時に客席から漏れた、「うわ、そう来たか」の感嘆の溜息は、この日の興行で特に印象的でした。

 ちなみに「溜息」もまた、コロナ禍の中にあっても特に問題のない観客の感情表現だと思います。

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