[ファイトクラブ]活字プロレス的、リアルジャパン/スーパー・タイガー考

[週刊ファイト3月6日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼活字プロレス的、リアルジャパン/スーパー・タイガー考
 photo & text byこもとめいこ♂
・しょっぱいエースの咆哮
・初代タイガーマスクの呪縛
・リアルジャパンとストロングスタイル
・スーパー・タイガーは何故サムライなのか


「赤いりんごが…」
と書くと、
「赤くないりんごだってある」
「りんごは赤いという偏見に傷ついた、謝罪して欲しい」
と、アサッテの反応を考慮するのがインターネットの世界である。
 確かにそもそもりんごは「赤く」はない。
 りんごの表面に無色の可視光線が当たり、ある波長の光は吸収され、反射した波長をりんごの色と認識しているに過ぎない。
 だからりんごを見て
「赤い」
と認識した人同士でも、その「赤」を本当の意味で共有する事は出来ない。
「底が丸見えの底なし沼」 
と、I.Y編集長がプロレスを評したのはそういう意味で、客席から見えている景色、パソコンのモニターから眺めた風景は似て非なるものである。


 
 活字プロレスの衰退は、選手個人が自分で自分を語るメディアを手に入れた時に始まったと思うが、それを受け取る側が、他人の見る色合いに感心を持たなくなった時代が到来した事も大きい。

 そんな中、リアルジャパンのスーパー・タイガーの寡黙さは、現代プロレスラーとしては異質である。
 一時のSANADAの様に喋らない訳ではない、会見や試合後のマイクアピール等、必要な場面があれば口は開く。
 だが、他のレスラーの様に、
「喋りもプロレスのうち」
とばかりに、自己アピールに身を入れている感じが伝わって来ない人は多いだろう。
 良く言えば優等生的、武道家、格闘家がマスクを被ってプロレスをやっているのだな…と解ってもらう為の事とも言える。そこは周りの評価と、当人の意識は一致していただろう。

 だから先日、健太のジムの公開練習でスーパー・タイガーが自らの口から
「世間のプロレスに迎合していっても追いつける訳がありません」
と、激情を迸らせた時、衝撃を受けた。

ーテーズ、ゴッチ組戦を明日に控えた夜、猪木は一人、道場で夜が更けるまで練習した。
『ヤケに興奮してね。じっとしていられないんだよ」
 猪木は訪れたS記者にこう言ったという。
 この逸話は後で知った。頭を殴られたような衝撃だった。
<何ということだ! 小判の山の上にいながら、猫に小判なんだよ、とブツクサ言っていたんだ…>
中略
 プロレスは青い漁り火なんだと知った。実体は赤いのに青く見える。それは意識的なごまかしではない。どんなに目を凝らしても青く見えるものならば、それを赤いと言い張る必要はない筈であった。ー
井上義啓著『不在証明』

 斬りつける事のない真剣を帯び、強さを内に秘めながら、黙々と、山場のない試合をやってみせるスーパー・タイガー。
 以前、会場に詰めかけるファンの抱く初代タイガーマスクの様に動いて飛んで…という幻影とのギャップをシタリ顔で指摘したが、誰よりも本人がその事に気付いていた事にがく然とさせられた。

記事の全文を表示するにはファイトクラブ会員登録が必要です。
会費は月払999円、年払だと2ヶ月分お得な10,000円です。
すでに会員の方はログインして続きをご覧ください。

ログイン