[ファイトクラブ]WWE 初観戦記「中邑真輔は真のカリスマとなれるか?」

[週刊ファイト7月19日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼WWE 初観戦記「中邑真輔は真のカリスマとなれるか?」
 by 風道猛
・2003年に「一番スゲーのはプロレスなんだよ!」と吠えていた中邑真輔
・中邑の突然の欠場にも不満の声はなし、スーツ姿にも温かい声援
・ダニエル・ブライアンのYES! に会場も一色
・団体を出て外から見る視点の意義とそこから初めて見えるもの
・日本を飛び出して外の空気に触れた中邑の決断は大成功
・アメリカと日本という国柄の違い、日本も完全にアメリカナイズなのか
・グッズ売り場で販売されていた3000円の高額なプログラムは論外


 2016年4月新日本プロレスを飛び出してWWE移籍という大英断を下した中邑真輔が2年ぶりに東京へ帰ってきた。しかし不慮の怪我のために、満員の両国国技館を埋めた観衆の前で宿敵AJスタイルとのと極上の試合を見せるという夢は叶わなかった。だが本当に犬に噛まれて痛々しい松葉杖姿で挨拶した中邑に対して、“地元”日本の観客は温かく熱いエールを送った。果たして中邑のアメリカ行きは正解だったのか? そして中邑が日本のWWEのリングの上で新たに見出したものは何か?

2003年に「一番スゲーのはプロレスなんだよ!」と吠えていた中邑真輔


 
 2016年の4月、新日本プロレスを飛び出してWWE移籍を果たした中邑真輔が2年ぶりに両国国技館に帰ってくる! このビッグニュースと中邑の日本からの因縁を引きずる新しいライバルであるAJスタイルズとのシングルマッチのメインイベントを心待ちにするファンで、この日(6月29日)のチケットは飛ぶように売れ4000円のC席、6000円のB席などの安いチケットは当日券もなく完売状態。ただし4人で3万円のマス席には空席も目立ち、この初日の主催者発表は8,000人未満であった。

「一番スゲーのがプロレスなんだよ!」~2003年、新日本プロレス否、プロレス界全体が低迷に喘いでいた冬の時代に中邑はこう言い放った。新日本プロレスからは「神の子」という最大級の称号を授かり次期エースとして嘱望されていたのが若干23歳の中邑真輔だ。これは奇しくも「アントニオ猪木太平洋上略奪事件」として知られる、猪木が兄と慕う豊登の誘いに乗って日本プロレスを飛び出して東京プロレスのエースとして迎えられた時の猪木の年齢と同じであった。猪木のその頃の危険度、若さゆえの野望と比較すると、スケール的にはやや落ちることは否めず可哀そうではあるが、中邑が当時の新日本プロレスにとって最後の切り札であり、救世主となりうる可能性を秘めた金の卵であったことは間違いないところである。

 しかしその定義の真偽は、それがどういうプロレスかということによってガラリと変わってしまう。本当に凄いプロレスとは何か? 過去の名勝負からザッとあげてみると、アントニオ猪木の日本人対決、一連の異種格闘技戦、アントニオ猪木対スタン・ハンセン、スタン・ハンセン対アンドレ・ザ・ジャイアント、タイガーマスク対小林邦昭、対ダイナマイト・キッド、新日本vs.国際軍団、長州藤波の名勝負数え歌、新日本vs. UWFの激闘、90年代SWS騒動後の全日本プロレス超世代軍の激しい戦い、新日本vs. UWFインターナショナルの対抗戦、小川直也vs.橋本真也の負けたら即引退マッチ・・・。何十年後の今もビデオやDVDで見られ語り続けられているこれらの戦いに共通しているのは、見る側である観客が戦っているレスラーと一体になって会場を盛り上げ、ひとつの独特な異空間、古館伊知郎アナ流に言うと闘いのワンダーランドを創り上げていたという点である。

 その顕著な例が、アントニオ猪木とスタン・ハンセンのシングルマッチで自然発生的にハンセンコールが沸き起こった瞬間。観客がハンセンの強さが猪木を上回ったことを素直に認めて、誰に強制されるわけでもなく強さへの賛辞としてのハンセンコールを送ったのだった。
 今回中邑帰国の最大のテーマは、「中邑はアメリカで揉まれた後のこの凱旋帰国で『一番スゲープロレス』を見せられるか?」ということに尽きる。

 中邑の突然の欠場にも不満の声はなし、スーツ姿にも温かい声援
 

 そして迎えた2018年6月29日のWWE両国大会初日。何とお目当ての真打ちであった中邑真輔がケガのために欠場。このビッグニュースがすでにファンの間を駆け巡っていたのである。そして中邑が松葉杖姿で登場して「帰ってきたぜTOKYO!」というセリフで日本のファンに挨拶し、地鳴りのようなウェーブとエールの入場曲合唱とともに満員の観客の歓待を受けた。しかし私個人はこのニュースを全く知らず素のままで試合、進行を見ていた。そしてこれはプロレス(しかもアメリカのWWE)でよくあるアングルであり、メインでは予定通り中邑のAJとのタイトルマッチが行われて、中邑がその松葉杖を使った攻撃も交えてめでたくチャンピオンになるという図式を予想していた。それが本当に警察犬に咬まれての怪我であった事実には本当に驚かされた。AJは中邑の代役のジョー・サモアを相手にメインの試合を務めたが、AJの頑張りと高度な試合内容で場内の観客を満足させて、中邑欠場を非難する声がほとんど聞かれなかったことは特筆される。(一部で何回か「ナカムラ!」という声が試合中聞かれはしたが)

 これは70年代の新日本プロレスに譬えてみれば、団体の顔として君臨していたメインエベンターであるアントニオ猪木が突如欠場したようなもの。この日の中邑vs. AJスタイルズの一戦を目当てに高いチケットを買ったファンが多くいたことは容易に予想され、場合によっては払い戻しに応じることも考慮されるべきだが、WWEの興行全体の華やかさを求めるファンにはそれは杞憂となった。(ただし会場の入口に中邑欠場の告知はされるべきではなかろうか)
 実際新日本の地方での興行で猪木が欠場し、その穴を埋めるべくナンバー2の坂口征二がサイン会のサービスなども含めて奮起してその代役を見事に務めあげて、払い戻しに応じるという対応がありながら、チケットの払い戻しをする者はいなかったということも過去にはあったという。
 そして日本のプロレスファンがWWEのスタイルを完全に理解して、AJスタイルズの試合の時には身振り付きで「エージェースタイルズ!」と連呼して、純粋にWWEのプロレスを楽しんでいる様子が見て取れた。マス席に陣取った夫婦連れの奥さんの方がむしろ率先して叫んでいたのには瞠目だった。

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