[週刊ファイト9月25日期間] [ファイトクラブ]公開中
▼負け組の星ハルウララ! タイガースマスクの連敗と阪神暗黒時代
by 安威川敏樹
・負け続けたために地方競馬では異例の人気馬となったハルウララ
・ルー・テーズの936連勝よりも光る、ジョバーの役目
・阪神暗黒時代、彗星もとい星屑の如く現れたタイガースマスク
・阪神タイガースが強くなった深い理由と、プロレス経営との関係
プロ野球(NPB)のセントラル・リーグでは、阪神タイガースが2年ぶりのリーグ優勝を史上最速で決めた。阪神の優勝が決定した時点で、セ・リーグの2位以下は勝率5割を切っていたのだから、まさしく圧倒的な強さである。
しかし、そんな阪神も弱かった時代があった。『阪神暗黒時代』と呼ばれた1990年代である。
そして9月9日、『負け組の星』ことハルウララが亡くなった。享年29歳、と書くと、随分と若死にのように思えるが、ハルウララはご存知の通り馬なので、人間で言えば約90歳である。
牝馬だからかなりのお婆さんということになるが、競馬をしない人でも彼女の知名度は抜群だ。
と言っても、強い馬だったわけではない。むしろ逆で、彼女は生涯一度も勝てなかった。まさしく阪神暗黒時代並の弱さである。それも屈強なサラブレッドが集う中央競馬ではなく、地方競馬に過ぎない高知競馬場がハルウララの主戦場だったが、それでも彼女は113連敗を喫したのだ。
ところが、1度も勝てないハルウララが注目され、人気馬となったのである。彼女はプロレスで言う名ジョバー(負け役、お仕事役)だったのだろうか。
▼大日本プロレスが試合を行った園田競馬場(兵庫県)も地方競馬

負け続けたために地方競馬では異例の人気馬となったハルウララ
ハルウララは1996年2月27日、北海道の信田牧場で生まれる。小さくて臆病な馬だったので、引き取り手はなかったそうだ。そこで、当時は地方競馬でも最もレベルが低いと言われた高知競馬場の調教師に預けることになる。高知でなければハルウララは勝てないと思われたのだ。もっとも、その高知でもハルウララが勝つことはなかったのだが。
高知競馬場でデビューしたハルウララは連戦連敗。ところが、その連敗記録が話題になるのだから世の中わからない。
2003年頃から、ハルウララは注目され始めた。だが、そこには地方競馬ならではの苦しい台所事情があったのだ。
つまり、高知競馬場の経営が悪化していたのである。このままでは四国唯一の競馬場が廃止されてしまう。何か打つ手はないか、と考えて苦肉の策で売り出されたのがハルウララだったのだ。
ちょうどこの頃、日本は格差社会と言われて『勝ち組』『負け組』という言葉が流行し始めた。勝ち組が負け組のマウントを取り(この『マウントを取る』という言葉も、この頃に流行していた総合格闘技からの言葉だ)、誰もが勝ち組になりたい、負け組には入りたくない、と思っていたものだ。
だが、人生はそんなに上手くいくものではない。ほとんどの負け組(何をもって負け組になるのか未だに判らないが)の人たちはずっと負け組のままと諦めていたのである。
そんな時に、ハルウララが現れた。ずっと負け続けているのに、懸命に走っている馬がいる。ハルウララに魅了された人たちが高知競馬場に集まった。高知競馬場としては史上最多の、1万3千人もの大観衆で埋まったのである。
彼ら、彼女らはハルウララの単勝馬券を買う。当然、いつもその馬券は紙屑となった。だが、それでも馬券を買った人たちは満足していたのだ。むしろ『当たらない、から交通事故に遭わないだろう』と理由で、ハルウララの外れ馬券が交通安全のお守りとなったぐらいである。
それまでにも地方競馬出身で大スターとなった馬はいた。その代表は、地方の笠松競馬場(岐阜県)から中央競馬へ転身した『芦毛の怪物』オグリキャップだろう。オグリキャップはクラシック登録をしていなかったために三冠レースには出走できなかったものの、それ以外では数々のGⅠレースを総ナメにした。引退レースとなった1990年の有馬記念では見事に1着、中山競馬場(千葉県)にはオグリ・コールが巻き起こり、未だに伝説となっている。
ハルウララは、オグリキャップに次ぐ地方競馬出身のスターだが、その内容は正反対だ。地方競馬出身でも勝てることを証明したオグリキャップと、どれだけ負けても人々を魅了させたハルウララ。ちなみに、引退レースでオグリキャップを勝たせた武豊は、ハルウララにも騎乗した。その武豊をもってしても、ハルウララに初勝利をもたらすことはできなかったのである。
だが、ハルウララは高知競馬場を救った。ハルウララ人気によって高知競馬場は潤うようになり、地方競馬としてはかつての最低レベルからトップレベルと言われるようになったのである。
▼本誌はプロレス・格闘技専門誌のため競馬の写真がございません。この写真でお許しを……

ルー・テーズの936連勝よりも光る、ジョバーの役目
プロレス界でハルウララのような存在のレスラーは、冒頭にも記した通りジョバーと言う。プロレスに於いて、ジョバーの役割は実に重要だ。
と言っても、基本的にはガチの競馬と、シナリオが決められているプロレスでは同列には語れない。もっとも、競馬にも八百長はあるのだが、競馬通に言わせると高知競馬場はガチ勝負ばかりらしい。つまり、ハルウララの113連敗は実力通りの弱さということか……。
高知競馬場の関係者も、ハルウララには勝って欲しいという思いと、勝てば話題がなくなり、また競馬場に閑古鳥が鳴いてしまうというジレンマがあったようだ。
ハルウララに騎乗した武豊は、最初は負け続けることで注目を集める事実に反発していたものの、ハルウララに声援を贈る観客の姿を見て、こんなスターがいてもいいんだと思い直した。
それに対し、プロレスのジョバーはあくまでも相手のスター・レスラーを引き立てるための存在だ。ハルウララは負けたくて負けていたわけではないが、プロレスのジョバーは負けることが仕事である。
そう考えると、ジョバーはマラソンにおけるペースメーカーに近い存在かも知れない。ペースメーカーの目的は勝つことではなく、他のランナーの記録を伸ばすことなのだ。しかし、稀にペースメーカーが優勝することもある。
プロレスでは、スター同士の試合を盛り上げるために、それに至る試合でジョバーが充分にスター・レスラーを引き立てなければならない。夢のカードばかりではファンも飽きるのは当然で、それまでのプロセスがキーとなる。そのため、ジョバーの存在は不可欠なのだ。
WWF(WWE)でジョバーとして活躍したバリー・ホロウィッツなどはその代表例だろう。まさしくミスター負け役(誉め言葉)である。また、ホロウィッツは全日本プロレスのマットにも上がり、スタン・ハンセンにボコボコにされて、見事にハンセンの強さを引き出した。
▼全日本プロレスでスタン・ハンセンのお仕事役を演じたバリー・ホロウィッツ
それに比べると、ルー・テーズの936連勝なんてチンケなものだ。そもそも、936連勝なんて数字は誰も信じていないが、素人相手でもない限りガチでやってこんな連勝が出来るわけがない。双葉山だって69連勝止まりである。
仮に936連勝が本当だったとしても、決して褒められたものではない。要するに、その間のテーズは『お仕事』しなかったことの証明だ。つまり、自分だけがエエカッコしていただけの話である。テリー・ファンクも自伝でルー・テーズの功績には敬意を表しつつも、『対戦相手を引き立てようとしない自己中心的な王者』と批判していた。
「俺はガチでやれば強い」とアピールするためセールしないレスラーは半人前で、自分を引き立ててくれる相手レスラーをリスペクトし、相手レスラーも引き立ててこそ一流レスラーである。

阪神暗黒時代、彗星もとい星屑の如く現れたタイガースマスク
今年の9月、スポーツ界でもう一つ大きな話題となったのが、阪神タイガースのリーグ優勝だ。冒頭で記した通り、優勝決定した時点で2位以下が勝率5割未満という、まさしくブッチギリの優勝である。
巷では早くも、阪神以外がこのまま借金を抱えたままなら、クライマックス・シリーズ(CS)をやる意味がないのでは? という議論が巻き起こった。長い公式戦で圧倒的な強さを見せながら、CSという短期決戦で敗れた場合、ペナント・レースの意味がなくなる、というわけである。