[ファイトクラブ]日本マット史を彩った兄弟選手列伝 ~その2~

[週刊ファイト3月15日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼日本マット史を彩った兄弟選手列伝 ~その2~
 by 立嶋博
・フォン・エリックス(ケビン、デビッド、ケリー、マイク、クリス)の悲劇
・異国に斃れたデビッド ~それは全ての始まりだった~
・悲劇の幕はいつまでも降りなかった。そして、誰もいなくなった・・・・
・クリスと例のクスリに関する誤解について
・「もうひとりのフォン・エリックス」 ~ビジネス・カズンの黒歴史~


 兄弟選手がプロレス界においてしばしば重要なポジションを担っている理由は、前回触れたファンクスが典型であるが、多くの場合、兄弟ともレスラーとしての高いスキル、体格を有していることが挙げられる。
 殊にファンクスの場合、身長6フィートをかなり超える見栄えのする体格もさることながら、名選手・名プロモーターであった父や、ジン・キニスキーをはじめとする父の優秀な仕事仲間をトレーナー役とした「英才教育」を受けることができる環境の中で成長できたわけで、二人が共にプロレス史の流れを動かすエピックとなったのも、決して不思議なことではない。

 とはいえ、似たような環境で育ったブラックジャック・マリガンの息子たち(バリー&ケンドール・ウインダム)が、非常な好選手ではあったけれどファンクスほどの存在にはなり得なかったことを考えると、時代に恵まれる、ということも大切なのだな、と思わざるを得ない。
 80年代後半にバリー・ウインダムが全盛期を迎えた頃にはもう、全米のプロレス事情は様変わりし、NWAという組織もほぼなくなっていた。
 バリーがトップの一角を務めたWCWのキャラクタープロレスは、残念ながら「レジェンド」を生み出すシステムではなかった。

 兄弟選手が重宝される理由のひとつに「兄弟タッグ」で容易に売り出せるからプロモーションが使いやすい、というのがあるが、バリー&ケンドールがヒール・パッケージとして売り出されたのは90年代終わりになってからで、これもまた旬を外した感が否めない。

 そんなこんなで「兄弟レスラー」列伝の第二回である。
 今回取り上げるのは、あの「呪われた兄弟」である。

 フォン・エリックス(ケビン、デビッド、ケリー、マイク、クリス)の悲劇

 梶原一騎の劇画作品では、フリッツ・フォン・エリックはダラスでビジネスに成功し、アメリカン・ドリームを実現した超大富豪であるがごときに紹介されている。彼が率いるダラスのプロモーションにブッキングされると、レスラーたちはエリック経営のホテルに泊まり、エリック経営の銀行からギャラが支払われる、というのである。
 実際には彼は地元銀行の大株主だっただけで直接経営していたわけではないようだが、ビジネスの面で成功した人物だったことは間違いない。
 長男のハンスこそ早世したが、ケビン以下の息子たちは何不自由ない環境で育ち、誰もが認める最高のプロレスラーである父から、プロの技術とレスリング・ビジネスの何たるかを教わる機会にも恵まれている。
 それぞれ資質の差はあれ彼等の前途は洋々、まさに順風満帆だったはずである。

 しかし、現在も存命でレスリングに関わっているのは昨年還暦を迎えたケビンだけ、残りの兄弟は全て若くして、しかも現役のまま死亡している。
 握力一つで世界を席巻した「鉄の爪」は、長男を含めて5人もの息子の葬式を出す羽目になったわけだ。

 異国に斃れたデビッド ~それは全ての始まりだった~


▲ T・ゴディをクロ―で攻めるデビッド https://www.youtube.com/watch?v=6vUL75zV9Z8

 息子たちの死の顛末はいちいち濃い。
 最初の死者デビッドは、1984年に25歳の若さで客死している。
 死亡場所は東京のホテル。全日本プロレスの招聘に応じて来日した際に、謎の死を遂げた(公式には「内臓疾患」が死因とされているが、状況を鑑みるに違和感は残る)。
 父の威光あらたか、実力もまずは十分、身長201センチ、ドイツの血を思わせる冷たい印象の顔も良かった彼は、若くしてミズーリ州ヘビー級ベルト(歴代のNWA王者候補が巻いてきた「予告編」的タイトル。実際、彼のNWA戴冠はメンバーの合意によって内定していたという)も獲得し、スターの階段を今まさに上り詰めようとした矢先の挫折だった。

 デビッドの来日の目的は天龍源一郎にUNのベルトを落とすことだった。
 タイトルマッチは1984年2月23日の蔵前大会のセミで予定されていた。そう、ジャンボ鶴田がニック・ボックウィンクルからAWA世界王座を奪取した、あの日の興行である。

 UNタイトルはジャンボ鶴田の返上に伴う王座決定戦(1983年10月)で天龍がテッド・デビアスに敗れたため、米国に「持ち去られた」状態になっていた。全日プロとしては、少し時間を置いてから天龍にリベンジさせて、これを奪還するというのが通常のストーリーラインである。その舞台として、この日のセミはうってつけだった。

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