[ファイトクラブ]今更ながら、プロレスの「反則」について考える!

[週刊ファイト2月22日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼今更ながら、プロレスの「反則」について考える!
 by 立嶋 博
・プロレスのルールは「反則を定義するため」に設けられる!
・「ルール」と「反則」の活用術 ~観客は教育され、操縦される~
・反則はプロレスの世界では「正しいこと」にすら化ける
・プロレスにおける本当の「反則」は「反則しないこと」?


 可能な限り、いろいろなスポーツを見ることにしている。
 球技も格技も陸上も水泳もモータースポーツも採点競技も将棋も見るし、カーリングやボルダリングの面白さも分かってきた。最近のお気に入りは、日本人パイロット・室屋義秀も参戦する「レッドブル・エアレース」である。

 どんな種目にもルールがある。ルールがあってこそ、スポーツ(あるいは遊戯)は成立する。ルールはその種目の目的と特質を決定するものである。つまりルールは種目を種目として形成するための外殻であり、エッセンスでもある。
当然ながら、競技者はルールに沿わない行動をしてはならない。それは反則、またはマナー違反として糾弾され、大なり小なりの罰則を喰らう。

 たとえば先に触れた「エアレース」では、同一エンジン・同一プロペラを搭載した小型機で、巨大なパイロンによって区分けられたツイスティな飛行コースを、いかに高速で周回できるかを競う、ノックアウト方式のタイム・トライアル、というのが競技の概要である。
 ただし競技中の飛行は定められた形態で行わねばならず、タイムを稼ぐための危険な操縦は許されない。

 言い換えれば、定められた形態以外での飛行は反則となる。
 たとえば競技中に設定コースを外れること、飛行制限違反(スモークを出さない、進入速度超過、ゲート通過時のインコレクト・レベル、パイロン・ヒット、最高高度違反等)、パイロットや機体に危険が及ぶ激しい操縦(エクシーディング・マキシマム・G)、などが違反飛行となる。


▲ Red Bull air race 2018 公式PV

 ただしルールは基本的にそれだけである。
 反則を犯すと、タイムにペナルティが加算されたり、即時失格になったりする。審議の結果は速やかに本人に通達され、場内にもコールされる。

 これは非常にシンプルで、一見の観客にも分かりやすいシステムである。
 モータースポーツは命がけの競技であるだけに、ルールが複雑で取っつきにくいのが常だが、これは驚くほど簡単でマーケティングにも配慮されている。たったこれだけを知っておけば、競技の本質と、観戦時の注目ポイントが誰にでも理解できるのだ。

 競技人口が限られている種類のスポーツのルールとは本来、かくあるべきものだ。
誰もが体験できるスポーツなら、いくら複雑にしてあっても自然とルールが周知され、面白さが伝わるが、このような種目ではそうした形での拡張は見込めない。自然、観客側にフォーカスしたルール設定が求められる。
 つまりプロスポーツのルールは、競技者のみならず、観客の楽しみのためにも重要なのである。

 四輪レースの最高峰・F1GPの人気が急降下しているのも、観客(試合の視聴者も含む)無視の複雑で、フェアとは思えないルール並びに素人には理解不能のレギュレーションを、ここ10年ばかりの間に大量に投入してしまったからである。
 最高のエンジニアたちによって限界まで性能が引き出されたマシンを駆って、荒くれ揃いのコンペティターたちが度胸と技術と体力の限りを尽くして力と力の勝負を繰り広げる、というモータースポーツの醍醐味が、ルールとシステムの改悪によってほぼ一掃されてしまった現在のF1からファンが離れるのは、当たり前のことである。

 さて、改めて言うまでもないが、反則は絶対にしてはならない。反則の許容や看過は、競技の秩序の崩壊を招く。

 しかし、反則が完全に許容される特殊な種目がたった一つある。
 それはプロレスである(まあ、所謂「スポーツ」とはやや毛色が異なるが)。

 プロレスのルールは「反則を定義するため」に設けられる!

 一昔前までは、プロレスの悪役と言えば反則、ラフの嵐と決まっていた。不愛想、陰険、傲岸不遜、レフェリーへの反抗や暴行はお決まり、客への悪態、それらしいコスチューム、そして「余所者(=地元ヒーローの敵)」といった外面的な要素と同じく、反則やラフネスは「ヒール」を表すための重要な「記号」であった。陽性ヒールのアブドーラ・ザ・ブッチャーや陰性ヒールのタイガー・ジェット・シンは、それらのほとんどを備えた、まことに稀有な選手である。

 ただし、それらの記号をいくつかでも所持していれば、観客は目の前の男を「ヒール」と見定めていたのも事実である。世界王者のルー・テーズやドリー・ファンク・ジュニアも、遠征に出れば「余所者」で「地元のヒーローの最大の敵」であるから、やはり位置づけはヒールであった。
 だからテーズもドリーも敵地で愛嬌を振りまくようなことはなかった(日本ではそうでもなかったが)し、反則または反則すれすれの強烈なパンチを試合中盤の組み立てに多用していた。いずれも「ヒール」の記号を強調するためである(ブルーノ・サンマルチノやボブ・バックランドがWWWF/WWF王者でありながらも完全ベビーでいられたのは、彼らが狭い東部地区だけのヒーローであり、他所へ出かけて現地のヒーローと対戦する必要がなかったから、と解釈することができる)。

 しかし、ヒールはただ暴れればいいという訳ではない。
 反則、または反則すれすれ、という絶妙に曖昧なライン(=ルール)が存在し、且つそれを観客が共通に知悉するからこそ、それらはラフの「記号」たり得るのである。


伝説の1983年11月24日『スターケード』ノースカロライナ州グリーンズボロ大会、流血のリック・フレアー対ハーリー・レイス戦。捌いたレフェリーはジン・キニスキーだった。

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